【舞台とお金1】小劇場演劇にかかる費用

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新型コロナウイルス流行とそれに伴う公演中止により演劇市場は大きなダメージを受けている。

文化芸術推進フォーラムの調査によると、演舞台芸術の2020年劇場収入は前年比較の71%減となり、52%減の航空、37%減の鉄道と比較しても深刻な収入減となっている。

4月25日に開始した再度の緊急事態宣言によって、中止になった公演や金額だけでも莫大なものだ。

5月6日には緊急自体舞台芸術ネットワークから、緊急事態宣言延長に際しての公演実施についての声明が発表された。

度重なる公演中止と見通しが立たない状況に、暗澹たる気持ちになる。

目次
小劇場演劇の制作費

  • 上演費用 100万円〜200万円
  • シンプルな収入の部
  • チケット収入を充てるのは外部から
  • 補助金があれば舞台をやめないで済む

学びと考察

  • 舞台監督という仕事
  • 美術や照明は機材費用込み
  • そもそも儲かりにくいビジネスモデル?

小劇場演劇の制作費

それでは、いくらあれば大丈夫なのだろうか。ある日石油王に会って、いくらでも出してあげるよ!と言われたら、いくらと答えるのだろう?

もちろん現実には石油王は現れないし石油を掘り当てることも無いので、具体的な金額を明示して、資金調達をする必要がある。

そもそも舞台が好きと言っている割に、全然舞台に関わるお金のことがわかっていない!と危機感を感じたので、調べることにした。

小劇場演劇に関わるお金

第1回目は小劇場での演劇公演を主催する友人に、そもそもの小劇場演劇で必要とする費用についてヒアリングしたのでレポートしたい。

今回の費用の概要
・公演が年1回ほどの社会人劇団
・実際の過去の公演の費用事例
劇団メンバーが数名、客演数名
・劇場は客席数約100名ほど
・5日間の公演日程

小劇場演劇の上演費用 100万円〜200万円

支出の概要は以下の通りだ。

支出(約130万円)
会場レンタル費(前後日程含む)
舞台監督ギャラ
舞台美術ギャラ・経費
照明ギャラ・経費
広告宣伝費
衣装・小道具経費
スタッフ小屋入り昼食費
記録写真経費・ギャラ
車輌費(美術や機材の運搬)
舞台監督経費
稽古場代
キャストギャラ(微小)

大体百数十万〜

感覚的には、小劇場を会場にすると大体100万円〜200万円で予算が組まれることが多いとのことだった。

【追記】劇場による違いや、人気の維持のための更なる予算
ツイッターフォロイーから教えてもらった情報だと、会場によっては予算はもっともっとかかるとのことだった。人気が出てくると、人気維持のための投資が必要になるとのこと。劇場も名のあるところを使う、外注スタッフも技術があり費用も高い人へ委託する、キャパを埋めるために少し名前のある俳優さんを客演で呼ぶなどすると、予算がドッと上がる。
人気が出てくると支出も増えるので、チケット代・グッズ代の収入と支出とのバランスが難しかったそうです。

いわゆるイベントにかかる費用

費用項目リストを見せてもらって1番最初に感じたのが、演劇もイベントなのだな!ということだった。

舞台と思うと特別なように感じるが、会場・機材・コンテンツを用意して集客をする、いわゆる興行と呼ばれる形態なのだ。

身近なところだと結婚式やお葬式、会社だとイベント出展やセミナー開催などの費用構造をイメージすると分かりやすかった。

外部スタッフは知り合い割引価格

舞台監督や美術、照明、チラシデザインなどは主宰である劇作家自身の知り合いに頼んでいるため、企業への正規価格であればもっと必要となるとのことだった。

可視化されていない劇団員の人件費

頑張れば100万円ちょっとで公演できてしまうんだ〜?と意外に安く感じたが、役者や劇作家の人件費が全然入っていないのである。安さに納得。いつの時代も人件費が1番高い。

稼働費はプラス数百万円?

例えば、東京都の最低賃金1,013円だったとしても、本番5日間、稽古30日間拘束×7.5時間×5名で、約130万円だ。

単純に制作費用として見るのであれば、倍額以上が妥当なのでは無いかと思う。各人が稽古の準備をしたり、作・演出のインプットの時間も考慮するともっと膨大なものになるだろう。

制作側の自腹前提の現状を実感すると、中々耳が痛い。でも、チケットを倍額で払えるのか?と言われるのも辛い。その分観に行く作品数は減るだろう。

劇場公演の場合稽古回数は20回〜30回、下手したら2か月以上ほぼオフなしで稽古する劇団もあるようなので、本格公演になればなるほどキャストや関係者も増えて見えない制作コストもうなぎ上りになるとのことだった。

シンプルな収入の部

収入はチケット代プラスアルファである。

収入(約120万円)
チケット売り上げ(一般)
チケット売り上げ(役者)
折込売り上げ

チケット収入は約120万円ほどなので、今回は約10万円の赤字は主宰の持ち出しとなっている。

友人の劇団ではチケットノルマがない代わりに、一定枚数以上を売るとインセンティブを設定していたが、ここは各劇団の方針によるとのこと。

チケット収入を充てるのは外部から

主宰で脚本家のギャラや、舞台稽古の期間のギャラ、交通費などはそもそもコストとして勘定されていないのが印象的だった。

支払い順は以下の通りとのことだ。

支払いが優先されるコスト
(外部の人への支払い)
会場レンタル費
舞台監督や制作、音響・照明などの外部スタッフ
機材や美術費用
後回しになるコスト
(関係者の人への支払い)
稽古場レンタル費用
キャスト交通費
劇団員の出演料
稽古中の人件費
劇作の人件費

舞台の実施のための、実費の支払いが優先されている。そして、脚本・演出・演技というコンテンツの根幹に関わる稼働費が手弁当になっている。

この後回しにされがちなコストを支援しないと、良い作品が生まれにくいというのが費用負担からも分かる。

補助金があれば舞台をやめないで済む

もし100万円の補助が出たらどうする?と無邪気に質問してみた。
主宰の持出が減れば、減るに越したことが無いと断言していたのが印象的だった。

また、演劇を辞めずに済む人が増えるのでは?との回答には、そうだよね、とホロリとした。舞台は好きだが、制作している方々にも生活があるのであり、ずっと業界にいてくださる保証は無いのだ。

もし補助が出たら、キャストへのギャラにしたいが、赤字を解消した後人数割をすると数万円にしかならず、結局大した額じゃないとのぼやきもあった。
各人で分けちゃうと、大幅給与アップは難しいというのは経営の悩みに通じる部分だと思う。

気づき・考察

ここからは、話を聞く中で特に学びになったことを中心に書いておきたい。
まずは、演劇制作の知識についてである。

舞台監督という仕事

「ぶかん」という仕事を認識したのが今回のインタビューだった。ざっっっくりした説明だと、会場入りしてから公演が終わるまでの、各種テクニカルスタッフの取りまとめとタイムスケジュール管理をする人のことだ。

基本的に劇場に入ると、プロダクションは舞台監督の管轄下に置かれる。大規模舞台になるほど、演出家が劇場ですることは少なくなるそう。

参考情報

  • すぐ読めるウィキペディア
  • Wikipediaの「舞台監督」の項目が分かりやすい。中の人の情熱がほとばしっている。

  • 現役舞台監督のまとめ本
  • 現役舞台監督8名の本の出版に関するクラウドファンディングが直近では話題になっていた。支援期限は5月27日まで(2021年5月6日現在)、9月に発送予定だ。

  • イギリスの演出と制作事情の参考書
  • イギリスの演出手法の本だと、日本とは舞台監督および舞台監督補の役割が異なるという記述が出てきた。

    ケイティ・ミッチェルの演出術:舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト

    舞台監督補が全ての俳優の動き、照明と音響のキューを書き込んで「The Book」(マスター台本)を作り、本番は舞台監督補のキューに従って機材が操作されるとのこと。

    対して日本は照明や音響を技術スタッフが直接操作するのでマスター台本を作らない場合が多いとのこと。
    国や興行規模でもここらへんは違いがありそうである。

美術や照明は機材費用込み

興味深かったのが、舞台美術や照明は、材料費・制作費・機材代と人件費が合計された総額の契約が一般的だということだった。

機材レンタルか、自前の機材でするのか?材料や制作にいくらかけるのか?等は委託先に一任されている。与えられた予算の中で、人件費込みで全てを賄うのである。

経費と人件費を分けて記載する見積もり文化に慣れていると、とても新鮮だった。のちに、そもそも見積もりを出さない、契約書自体も中々な商習慣であることを知るのだが、それはまた別の話である、、、

ここからは、調べる中で思った感想についてつらつら書いておきたい。

不可視の稼働費用は要注意

費用の中で、役者の稽古や脚本家の執筆の稼働が埋没しているということを前半に挙げた。この見えない稼働がやりがい搾取と紙一重なのが、課題の根っこだと思う。

ジャストアイデアだが、貿易のフェアトレードのように各人が基準以上の労働環境でできている舞台であることを宣言するマークが必要かもしれない。

そもそも儲かりにくいビジネスモデル?

結婚式やお葬式って、出席者が数万円単位を負担することで成立している場合が多い。
一方、チケット代は・・・?たかだか数千円である。

利益度外視の冠婚葬祭の参加費より、舞台のチケット代はべらぼうに安い。すでに勘定が合わない香りがぷんぷんしている。

制作に数ヶ月かかりマネタイズまでに時間を要する、無形で同じものを再利用できない、好みが分かれるため当たり外れがデカイ、観客になりうる人口のパイが少ない、会場に入る人数に制限があり、かつ各回に必ず人件費が発生する、など考えれば考えるほど、興行という形に縛られる以上、そもそも演劇って割に合いにくい形態なのでは?と考えるに至った。

ペイしづらいモデル縛りのベンチャー企業

次の記事で触れるが、小劇場演劇の劇団を継続運営しようとすると、ある意味ベンチャー企業のように会社経営的な経理・人事・法務が求められると気がついた。

加えてそのベンチャーが、興行という採算が取れないビジネスモデルしかできないのだ。利潤を追求するよりもさらにハードルの高い起業のようなものが、劇団立ち上げなのだと最近は考えている。いばらの道だ。

大手がグッズやスター役者のリピーター、スポンサー、当たり演目の再上演などで稼ごうとするのもさもありなんなのだ。

そしてそのビジネスモデルの裾野で、我々は日夜キャンプをしているのである。

次回は補助金と、補助金をもらうための劇団運営について考えていきたい。

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【舞台とお金2】舞台に関する補助金

2021-05-09