【ロンドン2024_5】Ballet Shoes 〜お手本のような児童小説の翻案

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初日2本目は、悩んだ末、児童小説とバレエが好きなので、ナショナルシアターの「バレエ・シューズ」へ向かった。事前にノエル・ストレトフィールドの原作日本語翻訳を読んで臨んだ。
エマ・ワトソン主演で映画化もされているが、映画版は上手く入手できなかった。

ちなみに初めてのOlivie Theatreである。広い!客席配置が不思議!

<あらすじ>
1930年代のロンドン。身寄りのない三人の赤ちゃんが学者に引き取られます。三姉妹は「フォシル」と名乗り、その名を歴史に残そうと誓い合うのでした。そして舞台芸術学校に入学し、自立への道を歩み始めます。女優志望のポーリィン、舞台が嫌いなペトローヴァ、バレエの才を持つポゥジーが、オーディションや公演などの関門に悩み、助け合い乗り越えていく様子をユーモアたっぷりに描く成長物語
福音館書店「バレエシューズ」より

原作では、長女ポーリーンは美少女で演技の才能があり最終的にハリウッドへ羽ばたく、次女ペトロヴァは色黒もやしっ子、才能もないが生活費を稼ぐために舞台に立ち最後はエンジニアを目指す、三女はバレエの才に優れて先生に贔屓され、最終的には自分でチャンスを掴んでバレエ団へ入団していく、というストーリーだったが、キャラとストーリーは大幅改変がされていた

また、原作の大きなテーマは舞台に立つためのキャリア構築活動(学校でアピールしたり、大御所に自ら売り込んだり)と、生まれながらの不平等の克服、金策・自立なのだが、舞台のテーマはあくまで皆がそれぞれの無限大の未来がある!という非常にポジティブなものに変わっていた。

原作の欠点をカバーし、現代の価値観に合うように作り変え、ターゲットの子供が飽きないよう、大きなオリヴィエシアターを満たすような工夫された演出だった。

翻案の匠みたいな完成度の高い作品でとても楽しめた。

その分、原作の特徴でいいなぁと思っていた部分、好き、得意、収入(評価)の3バランスをどう取るのか、キャリアを能動的に10代の子達が形成していくという部分が薄まっていたけど、それも優先順位つけてそうなっていた感じで好感が持てた。

以下、感想メモです。
文章化しているとお蔵入りしそうだったので、箇条書きのまま掲載します。

やっつけ仕事では無いです、そうです、持続可能なブログ更新です。。。

1幕

•舞台全体を化石で覆う。屋敷の表現だし、マチルダのオマージュのよう
•総論、テンポ良く、好感の持てる改変と、エンタメに振った配慮ある演出
ー原作の持つ児童小説にしては現実的でシュールな魅力の部分は薄まってしまったが、舞台にする躍動感を追求するなら妥当か
The Oceanの時も思ったけど、この演出家さんちょっと萌えが合わないかもしれない。良くも悪くも、万人受けするように角を取る演出

•明確な敗者がいない陽の演出
ー若干哀れなペトロヴァが好きなのだが(おそらく彼女が世の大半を体現していると思うのよ)、苦手なはずのダンスを容易に踊っていたり(特に即興の部分)と、キュートな容姿、明るい態度でそうは感じられない
ー私がこの世の敗者と陰キャに肩入れしすぎなのかもしれない

•エピソードを削り(バレエ学校へ行く経緯なも)、下宿人も文学教授とシンプトンさんのみキャラ統合など。
ー特に美貌と天性の才のポーリーンを大幅変更。喧嘩っぱやく、普通の学校は3つもやめたことに。
ー色黒でもやしっ子のペトロヴァを、1番愛嬌があって可愛い人へ変更。車が好きなのは変わらず。
ー3姉妹のバレエ学校入学をポージーが目に留まったついでにみんな、へ変更。児童労働の原作の現代に合わない課題を薄める。

•開演前からアンサンブル(と思いきや、主役3人も)総出で、バーレッスンしていたり、客席の子どもと踊ったり、客席みんなでアームスの練習をしたり
•バレエのダンスやオーディション歌がちょっとまったりしてくると、挟まれて飽きないように工夫
•入りのシーンは映写機(のような投影)や旗などでテンポよく

2幕

•2幕冒頭の演出が凝っている
3人が様々な作品に出ていることを、1階での衣装替え3回、着替え中の2階のドアを開けたら光や煙が溢れたり、全体が停電したりなどのとんでも舞台装置と合わせて面白おかしく表現

•ちゃんとバレエシューズの名に恥じない、バレエ披露がメイン
ー原作はバレエと銘打ちつつほぼ演劇の話だったので(原作者は小劇場畑出身)、クライマックスをバレエの話にした改変は大成功だと思った
ー途中の作中作である不思議の国のアリスのオーディションも友達の歌唱とバレエで盛り上げ
ーポージーのバレエオーディションへ向けたダンス披露を、ペトロヴァの運転で間に合わせに助けるラストへ大手術
ーポージーは手指をぎこちなく、クラシックの素養はないが、身体が優れている人として踊っていた。役者さん自体はバリバリのクラシックバレエを踊れる身体だったので、わざと拙いダンス。ダンスの映えよりもリアリティを取る、そうここはロンドン

•まさかのバックトゥーザ・フューチャーのオマージュエンド!!
ーラストはペトロヴァが車に乗って、舞台後方が開き、びやーっとライトがたかれる中で、聞き覚えのある曲が一瞬流れてジャン!!
ー科学者として歴史に名を残すかもしれない、という原作の蛇足的なあれこれエピソードを十秒足らずで表現する素晴らしい演出
ーここ涙が出そうだったし、このオマージュが分かる観客は大人だからどんな子供でも可能性を伸ばせよ!というメッセージを感じた
ー丁度、ちょっと前にミュージカル始まったしね

•全体を通じて他人の見た目を貶す人、ペトロヴァの嗜好を否定する人がいなくなる

•カーテンコールはアンサンブルも総出でダンス「シング・シング・シング」
ー最高に盛り上がる。
ー途中、ペトロヴァが即興で踊っていた振り付けも入れる

•3人の見せ場が平等に
ー原作だとポーリーンのシンデレラストーリーだけど、影が薄まる。映画のシーンとかに断片的に残る
ー3人ともいい子達なので、楽しい作品なのだがやっぱりロアルト・ダールの毒が欲しい気がしてくる

マチソワでヘロヘロしていたが、絶妙に盛り上がりを入れる演出ゆえ、最後まで無事楽しく見られたのだった。ラストは大きな会場を十二分に使った盛り上がる内容だったので、ホクホクしてナショナルシアターを後にした。


Noel Streatfeild(writer)
Kendall Feaver(playwright)
Katy Rudd(directer)
Frankie Bradshaw(set designer)
Samuel Wyer(costume designer)
Ellen Kane(choreographer)


Grace Saif (Pauline Fossil)
Yanexi Enriquez (Petrova Fossil)
Daisy Sequerra (Posy Fossil)
Pearl Mackie (Sylvia)
Jenny Galloway (Nana)
Justin Salinger (GUM/Fidolia)