「加熱していますよ〜」
キッチンから間の抜けた声がしている。シャープのヘルシオホットクックの音声だ。圧力釜と低温調理機、無水調理鍋をセットにした自動調理鍋。ティファールのクックフォーミーなど他社からも出ているが、シャープのホットクックは混ぜる取手がついているので、ミートソースなどの焦げ付きやすい料理でも焦がすことなく調理することができる。
ホットクックを導入したのは1年前だが、実際にはその半年前にヘルシオ・ウォーターオーブンを生活に取り入れ、そのあまりの便利さに感動して追加したのがホットクックだ。
先駆けて導入したウォーター・オーブンの方は、飲食店などで利用するスチームコンベクションオーブンの家庭版。水蒸気で加熱する形式のオーブンであり、温度の違う材料も一緒に熱を加えることができるまかせて機能がウリだ。
凍った肉や野菜、キノコなどの複数の食材をティファールの取手が取れるフライパンに放り込み、ボタンを1つ押すだけで、勝手に時間と温度を調節しグリル料理が完成する。
ハンバーグなどのフランパンでは焼き上げるのに苦労する料理も、同じくスイッチ1つで中まで火を通してくれる。付け合わせのピーマンやブロッコリー、ニンジンなども同じ便に乗せて一緒に焼けるので、約20分放置で夕飯が完成するのである。
下の段に週末に炊いて凍らせておいたご飯もお茶碗に入れておいておけば、ご飯の温めもできるので、さらに手間が省ける。
中の水蒸気もお手入れモードで、オーブン自体が蒸発までさせてくれるので、時たま拭くのとクエン酸洗浄をすればいいだけで大層お手軽なマシーンなのだ。
未来だな〜と使うたびに感動する。
今から15年ほど前の話だ。学生時代に料理をできるようになろうと、習得した。「基本の和食」なる本を購入して、そこにあるメニューを少しづつ作っては披露し家族に食べてもらっていた。
ひじき、切り干し大根、ひじき、切り干し大根、ひじきと切り干し大根、筑前煮、筑前煮と切り干し大根、筑前煮とひじきと切り干し大根、つくねの照り焼き・・・
気に入ると同じおかずをずっと食べたい性分なので、半年で4メニューほどしかレパートリーが増えなかったが、その後もインターネットでのメニューなどを取り入れて作れるものを増やしていった。
段々複雑な工程もこなせるようになり、ある夏の日にかねてより挑戦しようと思っていた豪華メニューに手を出すことにした。
そう、豚の角煮である。
ある日、本で見た豚の角煮がとろっとしてあまりに美味しそうだったので、いつかは作ろうと思っていたのだ。
お小遣いで豚バラブロックを買ってきて、豚を下茹でして、煮汁でさらに煮込んで、約3時間。豚の油でギトギトになる調理器具に苦戦しながらも、なんとか角煮が完成した。
スライスして、家族に披露する。果たしてお味はーー
大好評だった。お店にはかなわないが、ほろっとジューシーでご飯がすすむ。2本のブロックが飛ぶように売れ、ペロリと平らげられたのだ。
製作つきっきりで3時間、実食10分。
一瞬で胃の向こうに消え去った大作を前に、私の胸に湧き上がった感情をなんと呼べばよかったのか。
肉汁でギトギトなため、常より時間がかかる洗い物をしながら、無事挑戦を完遂できた達成感と、そして一抹の虚しさが去来した。その後、二度と角煮を作ることはなかった。
その後も、手作りバターチキンカレーに挑戦して大量のヨーグルト味のする辛い汁を錬成したり、ヴィーガン料理に手を出して大量の穀物類を余らせたり、などを経て悟ったことがある。
どうも手がかかる料理で達成感を得づらいのでは? 作る時間より食べる時間が極端に短いと、寂然としてしまうのはなぜだろう?
イタリアンやアジアンをシャランラ〜と作ってしまう、丁寧な暮らしをする人に憧れていたが、手間がかかるというのが先に立ってしまう残念な性分だったらしい。購入した料理本は数十冊に及んだが、結局作成したメニューは20もないのではあるまいか。
季節に合わせた食材を用意して、下ごしらえして、様々な調味料で味付け!なんてオシャレな暮らし、めんどくさがりにはできなかったようだ。
代わりにたどり着いたのは簡単調理。常日頃のおかずは、ひき肉や豚コマ、キャベツやピーマン、じゃがたまにんなど安価な材料を炒めたり煮たりしただけの、名もなき料理たちである。同じような食材をいくつかの調理法と、いくつかの味付けで回しているだけなのだ。
作成は概ね10分から15分であるし、大体が1回でその後2回分までまとめて作っているので、1日に台所に立っているのは片付けを入れても30分もなかった。
しかし自炊は好きだった。自分で作ったおかずを食べていると無上の喜びを感じる。翌日の昼ごはんなどを前の日に作って、弁当にするのもとても楽しい。
大人の自由研究!と称して、一昨年のある休みの時に100円均一の油粘土を購入してこねて遊んでいたのだが、その時に思ったのだ。
この形を作って成り立つ姿を見る歓喜、料理をする時に似ている!粘度でロールケーキなどのお菓子を作っていたのが、それが本物を作っている時と同じような楽しさだったのだ。
なんだ、本物でなくても面白く感じるのだと思ったものだ。裏返せば、実物は作った後にさらに食べることができて、日々の糧となるのでなんてお得なのだろう。1石2鳥である。
私にとって料理は飾って装うための美術作品ではなく、図画工作なのだろう。そういえば図画工作でプラケースや毛糸を貼り付けて、絵具を塗りたくるのが好きだった。美しく仕上げるよりも、作って完成させることそのものが嬉しいのだ。
カラー粘度をこねこねして気づきを得てから、文明の利器を積極的に取り入れていくようになった。手間がかからず生み出せれば万々歳だ。
角煮や揚げ物など、工程が複雑な品は外食や中食におまかせして、ズボラマンは作って食べるそのものを目的に、持続可能な自炊生活を送るのである。
料理を作って食べるのは好きだが、全自動でも構わないのだ。
「あと10秒です」
ヘルシオホットクックは完成の1分前と10秒前にアナウンスをしてくれる。大抵の場合、1分前のお知らせは右から左へ聞き流して、10秒前に慌てて台所に走っていく。シャープはホットクックを導入する人々の行動をわかっているのだ。
ウォーターオーブンに比べて、ホットクックの方がパーツが多いので、洗うのが大変だった。その代わり料理自体は、無水カレーや低温調理鶏ハムなど、手の込んだものが簡単にできる。使うのは少し大変だが日常のご飯レベルが格上げされる機械!という印象だった。
しかし、ここで更なるメカ、食洗機の導入である。先月に食洗機付きの家に引っ越した。なんとホットクックの鍋やパーツを放り込んで自動洗いができるのである。ホットクックの最大の課題であった洗う手間を駆逐するに至った。
そのため、週1回程度だったホットクックの稼働回数がジワジワと増加している。
また、食洗機には副次的な効果があった。お茶碗やお皿を使うようになったのである。白米を週末に炊いてラップに包んで冷凍して、平日は解凍して食べている。
今までお恥ずかしながら、洗い物を削減したいがためにラップのまま食している日も多かった。(ラップからご飯食べている人間が香草を使ったカツレツを作るのに向いている訳はないと今ならわかる。)
同じく、ワンプートといえば聞こえはいいが、お皿を汚すのが嫌なばかりに複数のおかずをてんこ盛りにしていたり、大皿にとりわけ形式にしている日も多かった。
洗い物が苦手だったので、物量の削減に涙ぐましい努力を重ねていたのだ。
それが今や、毎食お茶碗を使い、小皿にとりわけ、コップも飲み物を変えるたびに違うものを使いたい放題である。我が食卓に高度な文明がもたらされたと言っても過言ではないだろう。
断捨離候補になっていた引き出物のお皿たちも不死鳥のように蘇り、一軍選手として登板している。
複数の機械で複合的な効果をもたらし、生活習慣そのものを変えられるのだと実感している。
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