【舞台とお金2】舞台に関する補助金

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観客の立場から一歩踏み込んで、舞台のお金をテーマに調べてみるシリーズ。

第1回では、小劇場演劇の上演に必要な費用と内訳を見たが、第2回では補助金について考えていきたい。

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【舞台とお金1】小劇場演劇にかかる費用

2021-05-08

今回も友人にインタビューを実施した内容になるので、一般的な話ではなく個別の事例ということにご留意いただきたい。

前回のまとめ
・観客100人規模の小劇場演劇の上演費用は百数十万円〜
・人件費を含んだ制作費用は上演費用の何倍にもなる
劇団の身内になるほど、適切な報酬が得られない傾向がある

補助金と聞くと難しくて眠くなる。しかし、実現したいより良い世界があるなら、目をかっ開いて何にいくらどのように必要なのか主張していく必要があると思っている。

今回の目次は下記の通りだ。

目次
■舞台芸術への補助金?

  • ARTS for the future!事業
  • 補助金としてはフレキシブル
  • 補助金のクセ強めなところ
  • 興行しか対象にならない実情

■実際の補助事例

  • F/Tの収支
  • TPAMの採択補助金
  • その他文化庁の補助金

■劇団が補助を受けるには?

  • 委託契約により劇団員出演料も補助対象
  • 支払いには源泉徴収など注意が必要
  • まとめ

舞台芸術の補助金?

国や都道府県、市など様々な単位で補助金が用意されている。2020年度に継続支援事業という形で、文化庁が超大型公募を実施したのは記憶に新しい。

ARTS for the future!事業

文化庁に関しては、2021年度についても「ARTS for the future!事業」として、4月26日から公募を開始している。

補助金としてはフレキシブル

2021年1月8日まで遡って申請できるところ、通常だと公募申請、交付申請と2段階ステップを踏むことの多い補助金の申請を公募1回で交付決定をもらえるところ、実績報告と補助金支払いの前に概算請求で現金を早めに手元に入れることができる形など、かなり配慮して作られているスキームであると思う。

また、昨年の継続持続支援金を経て、概要と申請の動画が作成されたり、申請のための資料が格段に分かりやすくなったりと、申請に携わっている方々の痛切な努力が伝わってくる。

新型コロナ対策には効果が薄い制度設計

一方で、実施予定のイベントの補助・赤字補填、キャンセル一部補填がメインであり、コロナでそもそも興行を打たないことを前提とした人流減に資する補助金では無い。

財源は2020年度補正予算

余談だがすでに2021年度に入っているが、昨年秋に成立した2020年度の3次補正予算を財源にこの補助金を公募している。

2020年度3次補正は新型コロナ対策を旗印に19兆円規模の補正予算が組まれていた。その文化庁枠のうち、250億円を今年度に繰り越して、ARTS for the future!の財源としているようだ。

参考:文化庁2021年度予算概要

来年度以降の財源をどうするのだろう?と素人目には心配になる。

まずは2021年度予算を活用必須!!

引き続きこのようなフレキシブルな補助金が組まれるか否かは、まずは今年の活用と成果を見られることは間違い無いので、この予算が枯渇するぐらいの申請を出しにかからないと、すっぺりなくなる未来もありうると思っている。

統括団体の番号が必要?
昨年度の継続支援事業については、統括団体からの確認番号があるか無いかで申請が通るかの基準が分かれたそうです。
演劇では日本俳優連合日本演出者協会舞台芸術制作者オープンネットワークなどの統括団体があります。

補助金のクセ強めなところ

ここからは補助金って、そもそもどうなんだろう?というポイントを考えていきたい。

血税を注ぎ込む以上、自由に使えるものではなく、下記のような特徴がある。

補助金そもそものクセ
  1. 年度ごとの申請・使用
  2. 予算主義
  3. 後払い
  4. 原則、赤字の補填
  5. 申請内容から逸脱不可

ざっくりだと、事前に予算をしっかりと組んで申請、その通りに執行して領収書を提出、後払いという仕組みだ。

年度ごとの申請・使用

今年のARTS for the future! 事業も2021年12月31日までの領収書が対象となっている。
4月末から何にどう使うかきっちり計画・申請開始して、予算通り12月末までに終わらせるのは結構ハードである。

事前の予算組が必須

特に、事前にどれにいくら使うのかを明確に定めて提出する必要があるところは、創作行為である演劇とは相性が悪そうである。

主語が大層デカく恐縮であるが、演劇に携わったり好きな人は、自分も含めて予算執行というかそもそも算数すら苦手そうなイメージがある(偏見。
枠にハマるのが得意であれば、舞台なんてしないのでは無いだろうか(偏見。

複数の補助を得るなら予算を分ける
どの補助金でいくらまでを申請するのか?を決めて予算を組んでいくことになる。補助金は原則1つの事業に1つとなるため、複数の補助金に申請する場合は、事業の費用を分ける必要がある。
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(上記図は文化庁ARTS for the future! 事業説明会資料より引用)
この予算を切り分けて、補助対象いっぱいに調整して申請していくのが、資金調達の腕の見せ所になるかと思う。

劇団運営ではなく、興行への補助

文化庁の補助金の特徴
  1. 劇団運営への補助ではなく、興行単位の補助
  2. 劇団内部の稼働コストが対象にならない場合も多い

この補助が1興行あたりというところが、悩ましい点だと思っている。

なぜ日本の場合、芸術団体の総体が考慮されずに公演事業の部分だけを切り取って助成制度が構築されてしまったのか……?との理由を一言で言うならば、日本の芸術団体があまりにもいろいろあって、一つの枠組みで捉えきれなかったからではないかと思います。〜中略〜芸術団体の経営状態を数値的に分析しようにも、会計情報を公開できるようなところは限られていましたから、公演事業という部分に限定して制度を構築せざるを得なかったのだと思います。また、芸術団体の経営も企業と同様に、活動に必要な「資産」や、将来の活動に必要な「研究開発費」にあたるものが重要と言う認識がなく、〜中略〜経営分析がなされていないところに、経営に与える影響を考慮して助成額を査定せよと言っても、それは無理でしょう。
米谷尚子(2016)演劇は仕事になるのか?演劇の経済的側面とその未来.アルファベータブックス,103

前回も見た通り、役者と劇作家、制作など劇団内部のコンテンツの質に関わる部分が、従事者の持ち出しで成り立っている構図になっている。

実際の補助事例

規模が大きくなってしまうが、フェスティバル・トーキョー(以下F/T)、とTPAMについて公開されている情報を元にどんな補助を受領しているかを見ていきたい。

F/Tの収支事例

まずはF/T2020について。以下は公式の報告書から抜粋した。

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2.1億円の支出に対して、チケットなどの事業収入は約180万円しか無いので、あとは補助によって成り立っている様子が伝わってくる。

収入のメインは東京芸術祭実行委員会が拠出しているが、それ以外にも、文化庁助成金で8,200万円、国際交流基金アジアセンター助成金で400万円、助成金・協賛金等約100万円の収入になっている。
補助金をかき集めているのがわかる。

TPAMで申請している補助

福島3部作のライブ配信で記憶に新しいTPAMについても見てみたい。

こちらも神奈川県の新型コロナ対策の助成金(最大150万円補助)公文協のシアターアーカイブス(最大2,100万円補助)など、各事業ごとに補助金へ公募し採択されることで、資金をかき集めて運営をしているようだった。

配信を楽しむ舞台裏には金策に奔走している運営の努力があるのだなぁ、と感謝の心持ちでいっぱいである。

文化芸術収益力強化事業

TPAMも採択されている「公文協のシアターアーカイブス事業」は、文化庁の「文化芸術収益力強化事業」によって委託されたものだ。
他にも話題になった寺田倉庫の「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター支援事業」もこの事業として運営されている。

舞台に携わる人への側面支援

興行への直接の補助だけでなく、文化庁から実力ある企業や団体にお金が回ることで、そこからイベント主催やプラットフォームなどへお金が回り、最終的に劇団での演目上演への補助や集客の土台が作られていることがわかる。側面支援なのだ。

劇団が補助金を得るには?

それでは、具体的に劇団が補助を申請するのはどのような注意点があるのだろうか?

劇団員への出演料を対象にするには法人化

注意が必要なのが、多くの補助金が事業にかかった費用が対象になるため、従業員への給与などが対象外となる点だ。

劇団制作部の法人化

補助金の前提として事業への補助となり従業員への給与は対象にならないものが多い。
一部劇団ではこのようなことを回避するために、任意団体ではなく劇団を法人化して対処している。

劇団制作と作家・役者の委託契約

例えば、劇団制作を代表とし、劇作家や演出家、役者と委託契約を締結する。劇作家や出演者へのギャラを給与ではなく、制作のための事業の費用として計上することで、補助の対象としやすくなるのだ。

源泉徴収など税務上の庶務も増える

もちろん法人化することはメリットばかりではなく、支払いの際に源泉徴収をする必要があったり、そもそもの財務諸表を作成する必要があるなど、税務・財務の業務が発生することになる。

場合によっては会計事務所や税理士に委託する必要がある。

適切な報酬の前に、適切な財務と契約が必要なのでは?

少し前に、舞台制作の劣悪な労働環境が話題になっていた。舞台に携わる人に適切な報酬を!と私も憤っていた。

しかし、今回の内容を見聞きするうちに、そもそも健全な収入の前提として、健全な契約と健全な財務が必要なのだと気がついた。
全部がヘルシーになって、報酬が見える化して、やっとその多寡が議論できるようになると思う。

職人気質な商習慣?

話を聞いている中でも、金額を明示した契約書を締結しない課題や、確定申告などの税務を役者さんに一任している課題など、もっとディープな話題があるようだった。

良く言うと職人気質、悪く言うと古い商習慣があるのを感じたので、制作者に適切な報酬が払われる未来を希求すると、根本からもろもろを変える必要があるのだろう。
 

舞台人にそこまで求めるのか?

一方で、創作に秀でた人々をどう支えるのか?というのは、観客の我々の課題でもあると思う。劇場や演劇フェスティバル、業界団体が支援機能を持っているが、劇団個々の経営スキルアップよりも、支援機能の強化の方が効率が良いように思う。

今回のまとめ

・アーツ・フォー・ザ・フューチャー!事業など、各種補助金を活用する必要がある。

・興行のみへの補助だと、劇団運営には寄与せず、作品のクオリティの底上げに資さない可能性がある

・一方、舞台芸術への補助は、プラットフォーマーやイベント主催者など支出されるものがあり、側面支援がある

・現状の制度だと、劇団内部の人件費を補助対象にするには、劇団の法人化が必要になる

・補助申請の際に、税務や財務の知識が不可欠のため、関係者へのヘルシーな給与のためには税務や財務の知識のある人材の育成が不可欠である

※本記事は参考資料や知人への取材を元に作成した個人的な感想であり、実際の補助内容や申請方法についての詳細は各補助事業の事務局への問い合わせが必要になります。

参考資料

演劇は仕事になるのか?

今回調べたかったことが、定量分析で言い尽くされている本。特にイギリスと日本の演劇や補助の仕組みの違いはとても勉強になった。

【改訂新版】演劇は仕事になるのか? 演劇の経済的側面とその未来

だから演劇は面白い!

NODA・MAP立ち上げ、シス・カンパニー代表の北村明子さんの著書。

だから演劇は面白い! (小学館101新書 50)

この前のシス・カンパニーのプロデュース公演「本当のハウンド警部」のストリーミング、大変面白かった・・・!舞台の現場に至るまでにこんな流れが!と思った。演劇が採算を合わせるためのマネジメント手法が詰まっている。

セゾン文化財団のニュースレター「viewpoint」

企業メセナで有名なセゾン文化財団が年4回発行しているニュースレターが、過去全号公開されている。

特に第92回は「舞台芸術活動を継続していくためのお金をいかに生み出していくのか」特集とドンピシャのテーマのため、中から見た課題点など学ぶポイントが多かった。

調べ物関連ウェブサイト

NPO法人ポータルサイト(NPOと決算報告書などを検索できる)

F/T運営「特定非営利活動法人アートネットワーク・ジャパン」2019年度決算報告書

TPAM運営「NPO国際舞台芸術交流センター」2019年度決算報告書

▼前回はこちら!

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【舞台とお金1】小劇場演劇にかかる費用

2021-05-08