演技が下手だった頃を思い出して

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年末にブロードウェイミュージカルのThe PromのNetflixドラマを観ていて、改めてメリル・ストリープの多彩さに釘付けになった。彼女の役所は落ちぶれた大女優。トニー賞のトロフィーをドコドコとホテルのフロントに置いてアピールするのに一向にホテルマンに相手にされず、隣のテレビで見かけたことあるタレントの方が知名度があるシーンに、ミュージカルファンなら誰しもくすりと来たことだろう。
どんなに賞を取ってもテレビでブレイクしなきゃスターになれない!度々ミュージカル俳優が自虐ネタをするのを観たことがあるし、職場で持ちきりになるニュースはまずテレビ経由だ。

話が逸れたが、銀幕の大女優メリル・ストリープが、舞台で成功したのにどこか不器用でピュアな女優にしか見えなかった。学校の校長室で歌い踊る滑稽なステージも、テレビ越しなのにこちらまで取り込まれてしまいそうな押し出しっぷり。
威圧感ではなくて愛嬌を振りまくその手腕!マンマミーアや、メリー・ポピンズなど歌声を聞いてきたがそれもさらに磨きがかかって、ミュージカル映画の熟女枠は彼女が独占しているのではあるまいか。(あと、ヘレナ・ボナム・カーター)

「そうよ、あしながおじさんだわ!」
ふと高校の文化祭の練習シーンが蘇ってきた。私は中学と高校で演劇部に所属していた。しかし、舞台に立ってセリフを読んでいる時間より、舞台稽古を観てまたは舞台プランを考えている時間の方が圧倒的に長かった。裏方志望だったからではない。
そう、単純に演技が下手で、あまり役がもらえなかったからである。

学生演劇ながら完全実力オーディション制だった我が部活は、演出も出演者もガチンコ勝負。自分で役にエントリーしてオーディションを受けるのであるが、来る日も来る日も希望した役に自分の名前は書いてなかった。または役がついても、数シーンにちょっぴり登場する端役が多かった。
君は嘘がつけないね真面目だね、と言われたコーチの言葉を今でも覚えている。分かる、セリフを言うのでいっぱいいっぱいで、それだけだったのだ。

大人になった今であれば、主演の自主公演を企画するなり、演技の勉強をするなり、他の作品事例を見るなり、演出を担当していた人にどの役であればハマりそうな自分の演技なのかを尋ねたり、もっともっとやりようがあったと思う。
しかし、当時は大きな役をやったことがないことを気にしつつも、そのまま学校生活をエンジョイしていた。他にもバンドなどを掛け持ちして忙しくしていたし、セリフは多くないながらも自分の演じた役をこよなく愛し、舞台演出にもやりがいを見出して充実した日々を送った。もちろん学生なので可愛らしいものだったけども。

忘れられないのは同級生の演技だ。学年が若い頃から主演を重ねてきた彼女は、今振り返ってみても抜きん出て上手だったと思う。最後の文化祭はあしながおじさん。孤児院を訪ねてきた足の長い影を見てパトロンを足長おじさんと命名するそのジルーシャの台詞を聞いて、なんて魅力的なんだろうと思ったものだ。ステージの明かりに照れされて、「そうよ、あしながおじさんだわ!」そう得意気に言って暗転に入るシーンがとても好きだった。

部活の中で、大きな役につけないことで励まし合っていた顔ぶれがいた。その後高校を卒業して道は別れたのだが、得てして裏方スタッフの方が多かった部員の方が、劇作家になったり、主演公演を企画したり、または観劇オタクになっていたりしている。作り手に回るうちに舞台の懐の深さを実感したからなのだろうか。幕切れまで人生は分からないものである。