ゴールデンウィークを経て、休日の朝8時にポッカリ目が覚めて、朝1の布団でのTwitterタイムにふけっていたところ、その呟きは流れていったーー
すごく好みそうな作品の感想!そしてあと1時間も経たずに配信が終了するとな!いてもたってもいられず朝ごはんも食べずに視聴を開始したのだった。
イギリスのチチェスターフェスティバル劇場2018年の作品、Paul Gallicoの原作小説「パリスおばさんパリへ行く」。Daniel Evans演出、作詞作曲Rachel Wagstaff、作詞作曲Richard Taylor。
ディオールのドレスに一目惚れしたパリスおばさんが、一念発起してお金をためてパリに行き、ドレスを買ってくるというお話。
ドレスに恋に落ちる姿
親友と話の途中でベルグレイビア邸のドレスを垣間見して恋に落ちるのだけど、このシーンがあまりに素敵過ぎた。
主人公が正面をむいて、客席方向にドレスがある設定なので、観客からは主人公エイダだけが見えて、ドレスは見えない。
エイダが目を奪われた瞬間に彼女にスポットライトがバッと当たって歌い出すのだが、このシーンが1番好きだった。
歌っている途中から、先ほどまでの質素さをかなぐり捨てて「なんて輝いているの!それにフワッと揺れて!」彼女の身振り手振りから、ドレスの様子が伝わってくるようだった。
その後オーガンジーの素材にシフォンの花が付いていると教えてもらうのだけど、そういう夢のようなドレスだったのだろうなぁと、エイダの説明だけでも想像がつくような素敵なシーンだった。
ドレスの説明にも「こんな素材見たことがない!」と夢見心地ながら大興奮しているのだが、その間もズーーっと目はドレスの方向に釘付け。
そしてそのあとのこの歌「There Is More To Life」が泣けた。
今まで夢にも思わなかったような瞬間が今ここにあって、人生もっとたくさんのことが起こる、だって今がまさにそう、とささやくように歌い、最後にふと確信するように「私、ドレスを手に入れなくては(I have to have one)」と言うシーン。
この歌の間もズーーっとドレスに目が吸い寄せられたまま。これが泣けるのだ。エイダが好きなものに出会って、世界が色づいたのがこちらにも伝わってきて。
そして歌詞も「I have to have one」なのもすごく素敵だと思った。buyでもなくwearでもなくhave、そしてoneなのだよね。
彼女はドレスを着たり贅沢したい訳じゃなくて、心を奪われたディオールのドレスというものを自分のものにしたかったのだ。
最初にもらったカタログをずっと大切に持っていたり、ドレスをたくさん見て「夢じゃないの?今までの人生で1番幸せ」って言ったり、最後まで純粋なディオールのドレスに対しての愛が伝わってくるのだが、それが何とも泣けるのだよね。
主人公の孤独
オ、オタ女ー!!!!みたいな。途中までオタあるある!!と思っていたのだけど、中盤からもっと違うテーマが描かれていることが伝わってきて、そこから涙もりもりだった。
最初から空気っぽい描き方だったり、スポットライトの当たり方が暗かったり謎演出だったエイダの夫。後半に亡くなっていたことが判明する(シックス・センス的な。
エイダはもう30年も独り身で通い女中で生計を立ててきたのだ。勘のいい人なら気づくのだろうけど、気づかず普通に謎・・・と思っていたので、そこから胸がギュッとなった。
前半のシーンも仕事をしてお金を貯めていただけではなく、そして賢者の贈り物っぽく時計を売ったシーンも・・・。
ドレスにかけるエイダの想いや、彼女の辿ってきたこの30年を想うと、今幸せそうにしている彼女を見てすごく胸がジーンとなった。
エイダへの敬意
ストーリーとしては出来過ぎているのだけど、エイダに対しての登場人物たちの敬意もすごく良かったなぁと思った。
ドレスに惚れ込んじゃったおばさんをコメディっぽく描くこともできたと思うのだけど、ちゃんと好きなものに一直線の懸命な姿と自立したエイダへ敬意がプロダクションを通じて払われていて幸せな気持ちになれた。
若者に対する寛容や、とはいえ年長者の功でズイズイ話を進めるところ、今までの仕事のノウハウ・・・など、エイダは滑稽な女中おばさんじゃなくて、1人でパリまでやってきた行動力ある尊敬すべき女性として描かれていて、どうせ上手く行く話ならこういう話を見たかった!と惚れた。
エイダの友人のヴァイオレットもとても良かった。太っちょおばさんとしてこちらもコメディにできると思うのだけど、必要以上に笑い者にせず、エイダの夢を応援する彼女の心根の美しさがこれまたジーンと来るのだよなぁ。
舞台いっぱいのお花
ドレス着るのかな!ワクワク!と思っていたら着ないのかーい!!って思いながら、まぁもうこれは涙腺決壊するわ・・・なラストだった。
いい味出していた舞台装置の盆いっぱいに飾られるお花。文字通り、ミセスハリスへのお花。
彼女の築いてきた信頼や親切が、溢れる花々になって鮮やかに舞台上に現れて。
舞台ならではの表現というか、現実世界では花は見えないが、自分を取り巻く周りの人々との交流や優しさって、ドレスを手に入れることが叶わなかった悲しい心を包み込んでくれるくらい満たしてくれるものだし、大切なのだということがどストレートに伝わってきた。
現実では善良さや寛容は報われないことの方が多いのだろうけど、実際は日々を満たす輝きとして人生を彩ってくれるのだと、この先きっとこのお花を思い出すこともあるんだろうなと感じた。
ドレスを着ない終わり
てっきりドレスをバーンと着るクライマックスかと思っていたのだけど、最後は夫とのお別れなんだね。もう寂しくないねって言って、そのままお話がふっと終わるのがすごくジーンと来た。
エイダのドレスにかける情熱と彼女の持ち前の精神が周囲と良いものを生み、そして孤独じゃないねとエイダ自身が呟くのだ。
大切な人を見送ることを受け入れたエイダの心を思うと泣けてしょうがなかった。
ディオールのドレス!
この作品を見るきっかけになったのが、ディオールのドレスに惚れ込むというストーリー。いや、ドレス大好きマンなので、ショーのシーンはエイダと一緒に呆けていた。
予想以上にクラシックな上品ドレスがいっぱい出てきて大満足でした、、、