ドキュメンタリー「ベスト・ワースト・ストーリー」@Netflix

スティーブン・ソンドハイム作詞作曲「メリリー・ウィ・ロール・アロング」のメイキングヒストリーを視聴し始めた。
単純なメイキングなのかと思ったら、ドラマ性のあるドキュメンタリー映画で最後はジーンと泣いてしまった。監督は初演のチャーリー役ロニー・プライス。

ホリプロ作品もとても面白かった

メリリー・ウィ・ロール・アロングは2021年に劇場で観たミュージカルのベストの1つなので、メイキングとのことで視聴することにした。

ホリプロ上演バージョンは、1994年にオフブロードウェイでリバイバル、2000年にローレンスオリヴィエのミュージカル作品賞を受賞したマリア・フリードマン演出版。

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出演者の人生を振り返る

1981年のハロルド・プリンス演出版の大失敗について、オーディションから上演、そしてその後の人生について当時の出演者へのインタビューを重ねていくドキュメンタリーだった。

ソンドハイム作品への出演というキャリアの絶頂から、たった6週間でのクローズへ。
過去に戻っていく「メリリー」自体になぞらえて、各キャストたちの当時のきらめきと、現在の姿を対比して描いていた。

鬼才ソンドハイム作品への出演という栄光

印象的だったのが、オーディションと出演決定の出演者たちの喜びだ。
オーディション風景など、当時の映像がふんだんに利用されていて時代や作品の空気を感じることができる。

すでにスウィーニー・トッドなどで成功を収めていたソンドハイムとプリンス作品に出演できるということで、そのチャンスを掴み取った出演者たちはまさにキャリアの頂点に来たとはっきり自覚していたので。

上演大失敗という挫折とその後の人生

その後の人生についてもグッとくるものがあった。結局役者として大成してトニー賞を受賞する人もいれば、舞台関連の仕事に就く人、関係ない仕事をしている人など様々。

楽屋を訪れながら「メリリー」での成功をきっかけに自分のトーク番組を持つことを望んでいたと当時の夢を吐露したり、役者を諦めざるを得なかった人生をもっと戦略性を持っていたら違っていたかも・・・と涙ながらに振り返っていたりなど、役者としてヒットをしていくのはほんのひと握りなのだと痛感するようなシーンだった。

前半のソンドハイム作品への出演決定時の顔が輝かしいものであるばかりに、後半の挫折と落胆は胸に迫るものがある。

人生の喜びは無くならない

チャーリー役のロニー・プライスのシーンが一番心に残った。
「何も成し遂げない人生を送ったとしても、この瞬間があるから生きていけるはず。開演前にトラックにひかれても構わない、やりたいことを達成したのだから。」
煌めく瞳を宿した当時の自分の映像を見て、「彼を好きだよ。また、現在の自分自身(後年の彼)についてもどうかは分からないけど、自分の人生の成し遂げてきたいくつかのことは気に入ってもらえると思う」と回答して涙するのだ。

まさにメリリーのメッセージ

このシーン、監督自身のちょっとやらせ感のあるシーンなのだが、それでも一緒に涙がじんわりしてしまった、
おそらく、人生の苦さを知った現在から振り返っても、当時の眩しさが失われるものでは無いのだという「メリリー」の作品自体の核メッセージを体現したシーンだからだろう。

人生は続く

その喜びは全然間違っている、と現在から見て思うかもしれない。だからと言って、希望に満ちていた自分自身の全てが否定されるものではないのだ。

願いや喜びを構成する要素は自分の人格そのものなのだから、形を変えてまた出会う、出会える。かつての自分に温かい眼差しを注げるようになった時、人は救われるのだと思う。

ドキュメンタリーを彩る名曲たち

また使われる曲は勿論メリリーのものなんだけども、各シーンの曲が当てはめられていて憎い演出だった。