スタイリッシュなてんこ盛り愛憎劇〜The Effect @NT at Home

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ジェットコースターのようなあらすじと、過剰だけどスタイリッシュなSF的な演出によって、何を観たんだろう?何の話だったのだろう?という疑問符がつきながらもあっという間に見終わった。

医療ドラマか、人間ドラマか?

新薬の実験の被験者、ConnieとTristan、2人をモニターするDr Lorna James 、オブザーバー的な立ち位置のDr Toby Sealeyの4人芝居。
ConnieとTristanは新薬の影響で恋に落ち、ハイになって盛り上がる一方で、どこまでが薬の副作用かということで思い悩む。一方医師2人にも別の思惑があって、事実が次々明らかになる中で、2人の再出発で終幕となる。

医療ドラマの形を借りつつ、男女の愛憎、モニター医師の葛藤といった人間ドラマの話だった。

てんこ盛りの課題意識

繰り返し出てくる人間の寿命は伸びすぎたという台詞や、恋人や夫婦の愛情がどこまで環境の副作用によるのか?というメインテーマ、実験を主催する側の傲慢、男女の恋や愛着の違いなど描きたい課題意識は伝わってくる気がする。

それぞれの着眼点は好奇心をくすぐられるのだが、結論が描かれず放り投げられているというか、消化不良のまま終幕を迎えてしまう。

しかし、作品のテーマ自体が実験であり、舞台演出も実験的な雰囲気を全面に出していたので、とっ散らかっていたけど実験的な作品ならまぁ許せるかという不思議な雰囲気があった。

ユーモアや展開の速さという脚本の長所と、人工的でスピーディーな演出が噛み合っていた面白さはあったと思う。

ディストピア的な衣装・照明・音声

照明やマイク、鼓動などの演出は特筆すべきところだろう。ジェイミー・ロイド演出のシラノ・ド・ベルジュラックの印象をそのまま感じた。

特に薬を飲むシーンでは、Dr Jamesがマイクを通じて「5・4・3・2・1」とカウントして、その後ビープ音が入る。

ラストシーンもこの演出で終幕となっていた。

観ている途中で、「いや、薬の実験にしては大仰すぎないか・・・?」とシュールで面白くなってしまったが、最後までこのリズミカルな掛け声で緊張が走ることによって、ドラマのシリアスさが保持されていたと思う。

薬をキメる役者を堪能

この芝居の見どころの1つは、ハイになる役者だろう。
2人の実力が拮抗し、本当に恋に落ちているように見えなければ話自体が破綻してしまうが、見事に成功していたと思う。
(惹かれあっているように見えない芝居もあると思うので、何が違いなのか?というのは今後も検討したいテーマだと思っている。)

特にTristan役のPaapa Essieduは、冒頭の声を掛けるチャラ男シーンから、裏切られてConnieに迫る少しモラハラっぽいところ、薬での発作、ラストシーンの忘我としているところまで、目が離せなかった。

毎日これを演じていて、心身の負担は相当なものなのでは?と心配になる程だった。

2022年のキャリル・チャーチル脚本、リンゼイ・ターナー演出「A Number」での息子3役の演じ分けでも身体表現まで行き届いているという絶賛レビューを読んだので、なるほどという納得感があった。

創世神話っぽい

最終的な結末は、新たな創世神話を見ているようだった。同じ誕生日の2人を見つめて、医師2人が涙を流していたからだと思う。

罪を犯した女と、吐精を行う男、そして失敗はありつつも愛情深く2人を見つめる創造主たち・・・という感じで、もし創世神話を女性が主体的に行ったとしたら?というようなifの世界観なのかと感じた。

何かの暗喩が含まれているのだろうけど、結局何を表現していたのかな?というところまでは受け取れきれなかった。

Cast
Connie Taylor Russell
Tristan Paapa Essiedu
Dr Toby Sealey Kobna Holdbrook-Smith
Dr Lorna James Michele Austin

Crew
Lucy Prebble writer
Jamie Lloyd director
Soutra Gilmour set and costume designer
Jon Clark lighting designer
Michael ‘Mikey J’ Asante composer
George Dennis sound designer
Sarah Golding Yukiko Masui movement directors (say)
Kate Waters fight director
Ingrid Mackinnon intimacy coordinator