イヌア・エラムス翻案・脚本「3人姉妹」@NT at Home

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ちょうど2020-21の年末年始のロンドン旅行の時にナショナル・シアターで上演していたので記憶に残っていた公演。

チェーホフの作品はこの1年で、カモメ、桜の園、3人姉妹とだんだん馴染むようになってきたので嬉しい。有名戯曲は背伸びして見ておくと、あちこちの再演で出会うので時間が味方になって理解の幅を広げてくれるといつも思う。

こちらの全編手話の3人姉妹もすごく見て良かった作品。以下、アーカイブ配信である。
◆レッドトーチシアター「3人姉妹」(全編手話による演劇)

ビアフラ戦争下ナイジェリアへの翻案

バーバショップ・クロニクルズのInua Ellamsの翻案・脚本、演出はNadia Fall、3人姉妹の名前もロロ、ヌェチュク、ウドへ変更され、憧れの地はモスクワからラゴスへと変更になっていた。

相変わらずツイッタランドの親切な方々の助言により、ナイジェリアの内戦及びビアフラ戦争を予習してから視聴した。

Wikipediaを見ながら年表を書き、舞台のシーンが今どこの時点なのかを場面ごとに書き込んでいく作業をしたおかげで、登場人物たちが何に困っているのかを理解できた。

翻案がこんなにハマるんだな

かつて繁栄した家の荘園という設定をイボ人の疎開先に見立てたり、火事騒ぎのシーンを内戦の混乱に変更したり、長男妻のナターリヤを1人だけナイジェリア政府側の人間として異質さを表現したりと、チェーホフの話の筋を使いながらもオリジナルストーリーになっていたのが目からウロコだった。

アジアンである我々もこの翻案とても参考になるのでは・・・?と思ってしまった。

ラストはオリジナル

物語の背景が激重なので、次女の浮気騒動が逆に卑近で明るく感じるエンディングだった。

家を失った3姉妹と国を失った国民を重ねて、なんでこんなに苛まれなくてはならないのか?と、観客が問われて終幕となる。
幸せを知らぬまま苦しみ果てなければならない3姉妹たち。彼女たちが死んだ時に、その理由がわかるというセリフだった。

歴史は振り返ればナイジェリアの平定へ向けて意義があるひと繋がりかもしれないが、渦中の罪なき人々が踏みにじられたことは決して無くならない、という強いメッセージと受け取った。

直接的なイギリス批判

イギリスは内戦で3姉妹たちイボ人を死に追い込んだ側だ。作中でも、イギリスのイボ人の排除、及び資金や鉄道などの援助によってナイジェリアをコントロール下に置き、ビアフラ戦争を引き起こしたと名指しで批判されていた。

イギリスによる途上国の搾取批判の舞台を、ナショナル・シアターで上演する言論の自由を感じた。