文化起業家#10小さい組織の大きな仕事

どもども、忘年会メドレーが始まりいよいよスケ管が甘くなってきているケイです。

9月ニューヨークから帰ってきてから、うっすらと感じていた疑問。私の観劇体験って何か役に立っているのだっけ・・・?
NYから帰ってきた今なら内なるエネルギーで豆電球とかともせそうな気がする。ツイッターに萌えを叫び倒す以外にこのパワーを何かにつかえないものか?

観劇はもちろん、幸せのため。観劇以上に脳内麻薬を分泌させる体験があるだろうか。いや、無い。好きなものに触れている時間は私にとって喜びの全てであり、そのために生きている。というか、もはや好きな作品に貢ぐために生きている(ドヤァ。

上記大原則は置いておいて、基本的には消費しかしていないのでブログなんぞを運営しているわけだが、もしかしたらもっと生産的なことができるのだろうか。

舞台からもらったエネルギーの使い道

ベンチャーを運営している知人に相談したところ「グッズでも販売したら?公式とのタイアップのグッズって儲かるらしいよ。中国に制作を発注すれば布製品なら原価は知れているし。自分が好きなジャンルならマーケティングコストも少ないでしょ?」とのこと。

違うわ!そういうことじゃ無いわぁぁああ!お金儲けたいなら、そもそもシアターゴーアーの端くれになってないよ。もっと(お金の)リターンのあるものに投資するわ!というわけで、生産的なこと、と言いつつお金儲けでも無い何か?

そんな何かを探すために、イベントにちょこちょこ参加しているので様子をレポートする。本当は結論が出てからカッコよく書きたかったのだが、長い旅路になりそうな気配のためとにかくご紹介をしたい。

文化起業家トークセッション

東京都が起業を考える人向けに開放しているワークスペースStartup Hub Tokyoでは毎日様々なイベントを開催している。財務やビジネスモデルのレクチャーが多いが、実際に様々な分野で事業を興している人の話を聞く会も開催されている。

今回はアート分野で事業運営している人の話を聞くセミナーに参加した。参加費は無料。余談だが、Startup Hub Tokyoのセミナーは無料か安いものが多く充実しているので、ぜひ一度のぞいてみてほしい。

Startup Hub Tokyoのイベント一覧

文化起業家トークを聞いてきた。

アートのNPO団体法人inVisibleがゲストを招いて開催している文化起業家シリーズの今回は第10回。約60分のインタビュー形式で、現在の仕事に至るまでの経緯と、現在のビジネスモデルについてあけすけに語ってもらう講演だった。

「文化起業家」シリーズは、プロダクトやサービスによって私たちの世界に今まで無かった新たな文化的価値を生み出している起業家を「文化起業家」と呼び、彼らの起業ストーリーや取り組みについて伺うトークイベント。

ゲストはアートディレクターとして日本各地の芸術祭や文化芸術事業を手がけてきた、P3 art and environment代表の芹沢高志さんだ。

このお方、埼玉トリエンナーレ2016のディレクションをされるなど有名な方だったらしい。
アートは全くの門外漢なのだが、それでも目からボロボロと鱗が落ちるような興味深いお話だった。

以下略歴をこの日のお話より抜粋。※メモベースなので、正確な情報は上の引用したツイッターのリンク先をご参照ください。

◆芹沢高志さん(P3 art and environment 統括ディレクター)
地域の国際芸術祭のディレクターを務めた方。

・1989東長寺 3年間のプロジェクト
境内に水を満たし、地下に境内を作って、アートスペースにした。
ーダンサースペースとなっているNYCのジャドスンメモリアルチャーチをモチーフにした
ー東長寺はアートスペースとして現在も会場になっている(東長寺へのリンクはこちら
ー元はスペースの設計だったが、作った後の運営を任された(ディレクター)
ー週2〜3日でいいと思ったが甘く、ここからディレクションの世界にどっぷり浸かることになった。
ーやりだしたら甘かった(人生は計画通りにはいかない)
ー10年間、アーティスト人脈作り、企画・実行をした。
→その後、出向いてプロジェクトをする形になった。

2002年とかち国際現代アート展「デメーテル」帯広競馬場厩舎地区ほか
ー帯広の新大陸的な風土が興味深かった
ー横浜トリエンナーレなどフェスティバル的なのが始まった時代
ーアートを求めて風景の中を歩いていくような企画

2005横浜トリエンナーレ「アートサーカス」山下埠頭の倉庫ほか
ー会場が刺激的だったので、それを生かすような企画づくりをした

2009年別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」別府市中心市街地
ー魅力のある景観(お湯の煙、お湯の上に浮かんだ土地、小さい公共温泉)
ー外湯文化と風呂屋コミュニティが生きている地域文化を生かすような会場作り
ーまちへ歩いてもらう

・2016さいたまトリエンナーレ
ーディレクター

お話が進むにつれ、夢中になっているのが如実にわかるメモの減少具合よ・・・。

とにかく最初は宗教法人の中でお寺のアートスペースをいかに活用するのか?が主軸だった活動が、現在のアートフェスティバルのディレクションの仕事に繋がっているとのことだった。

なお、お話の中で何度も「ゲニウス・ロキを解放するのが私の仕事の原点」と述べていたのが印象的だった。ゲニウス・ロキとはローマ神話における土地の守護精霊から意味が転じて、土地の文化・雰囲気・土地柄を表す単語だ。科学や大量生産による世界の均一化など、今世紀はゲニウス・ロキを封じ込めるような世界的な動きをしてきたとのこと。

写真は当初のスペース作りのモデルとなったJUDSON MEMORIAL CHURCHでの公演の様子。
土地の文化や現在の建築物、住んでいる人々を生かしながら、特徴を捉えて外に向けてアートとしてディレクションすることが活動の喜びでありモチーベーションであるのだと理解した。

参加者もアーティスティック!

サラリーマンブロガーの筆者はまず会場の雰囲気にやたらドキドキした。ラフな格好、オシャンティな服、長い髪・・・みなさまアーティスティックですな。日々の生活ではあまり出会わない方々が山盛りいらっしゃる。
参加者は50名程度。30代〜50代まで年齢層はバラバラだが、比較的年長者が多い印象。男女も半々だった。

質疑応答の時に判明したのだが、カリフォルニアのアーティスト、インドで芸術祭プロデューサー、カナダトロントのアーティスト兼キュレーターなど参加者もアート分野ですでに活躍している人も多かったようだ。

もちろん筆者もマックブックをおすまし顔で広げたり、持っているワードローブの中で一番ラフな感じのニットを着用するなど、できるだけアート感を出せるように工夫して参加した。そうだ、まずは形からだ

いよいよアートに向き合う時

学生時代に演劇部だったことが縁で舞台の世界にハマってきた筆者にとって、アートは少し入りづらいものだった。タイトル「無題」の絵画を見てもよく分からないし、何かものがつくなっているシーンに出会っても、ものがごちゃごちゃしているなぁ・・・とそのままの感想しか抱けぬ。しかし、舞台の世界が深まるにつれてアートの世界とは不可分になっていくので、最近常々この苦手意識を払拭せねばと考えていた。


きっかけは今年2017年に映画館で観たメトロポリタンオペラ「L’Amour de Loin(遥かなる愛)」。シルクドソレイユの有名ステージ「KA」の演出家ロベール・ルパージュの現代オペラだ。

具体装置や具体的な役どころはほとんど登場しない抽象的な舞台だったLEDの光の海で繰り広げられる、きらめくような美しい旋律の織り重ねと究極の愛・・・( ˘ω˘)スヤァ…

ちょっと難しかったので所々意識が飛びつつ、あまりの美しさに魅了されたのだった。よく分からないが、涙が出るほど美しい・・・気がした。最近抽象演劇やコンテンポラリーダンスなどへも触れる中で、背景にあるアートを理解できるようになりたい欲が高まってきたのだ。

よく分からないもの=アート

今回のお話で、アートとはそもそもよく分からないものだというお話が印象的だった。アートとは触媒であり、見る人の体験に重きをおくことが重要とのことだった。世界は不条理であり、そのよく分からないものの頂点としてアートがあるのだと。

最近、ギャラリー巡りのこちらのブログなども拝見しているのだが、筆者の予想以上にアートの体験というのは動的なもののようだ。分からないものを体験して解釈する体験を通じて、自分自身の生きていく哲学を見つめられるのかな?と感じたが、ここは大きな宿題になりそうな部分だった。

芸術祭のプロデューサーの仕事

今回の講演では、アートディレクションについてお金面や取り組み内容面など具体的に紹介されていた。下記印象に残った部分をメモで残しておく。

◆芸術祭のプロデューサーの仕事
映画のプロジェクトチームに近い形をとっており、各団体のp3のメンバー数名以外は都度招集する。
ースタジオにこもって一人で作品を作り続けるという古典的なアーティスト像が壊れ始めている。
ー色々なスペシャリストをオーガナイズしながらプロジェクトチームを作らなければならない。
ー外部の信頼できるコラボレーターと一緒になり、座組みをうまく組めればイベントは上手くいく。
出版物、制作物、グッズでの資金回収は規模が限定的。トントンになれば良いという考えで臨んだ方がいい。
ー収益を狙うなら自治体の補助金、企業などのスポンサーシップの方が現実的である。
ディレクターの仕事はスポンサーを引っ張ってくることも重要であり、プレゼンは大事。
ーもし予算が多く取れないのであれば、見込み観客と予算でできる規模のフェスにすることもプロデューサーの仕事。
ー「よく分からない」アートと「先まで決める」計画は本来矛盾しているが、ちょっとずらして回るようにするのがプロデューサーの仕事

信頼できるスタッフを引っ張って座組みを整える部分は、舞台のプロデューサーと繋がる部分があると感じた。

デザイン思考とのリンク

迷った時な生命の行動様式に従うべし、の項目の中で紹介されていたバクテリアの行動手法である「ランダム・バイアス・ウォーク」が心に残った。

ランダム・バイアス・ウォークとは一定時間ランダムの方向へ進み、そこの部分の餌の濃度が前回と同じなら進み続ける、薄くなったなら違うランダムの方向へ向かってまた一定時間進む、それを繰り返すことでもっとも濃く餌を食べられるというもの。

アートと並んで最近の筆者の課題である「デザイン思考」ともリンクしてとても納得感があった。まず小さくてもいいので実際の課題を解決するプロトタイプを作り、実際の中で修正していく・・・自分自身の活動もそうありたいと感じた。

本イベント次回は12月21日京都を中心に活躍する田村篤史さんが登壇します!

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