世界の芸術劇場ハンブル・ドイツ劇場編@東京芸術劇場ギャラリー2

どもども、連日の忘年会のケイです。昨日は気がついたら床で寝ていたし、この時期は体力と財力が必須だ。
観劇プラスアルファを探すシリーズ第2回、今回は海外の方の講演「世界の芸術劇場ハンブル・ドイツ劇場編」に参加してきた。

前回はこちら。

文化起業家#10小さい組織の大きな仕事

2017.12.03

会場は野田秀樹御大の本拠地、池袋の東京芸術劇場
余談だがこの劇場の巨大な吹き抜けになっている地下スペースがとても好きだ。ぼんやり座りながら、駅ナカスイーツをつまむのがなんとも安らぐ。この日もクリームパンをお腹に詰めて会場へ向かった。

ハンブル・ドイツ劇場の裏側!

今回は海外の劇場の運営について迫るというもので非常に興味深かった。なお、ゲストはドイツのお方!ということで同時通訳のついた講演となっていた。

真ん中の金髪の方がゲストのリタ・ティーレさん。右側が通訳さん。

海外の劇場はどのようなコンセプトのもとに企画が立案され、どのような体制で運営されているのでしょうか。このレクチャーでは、近年ドイツ語圏を代表する作品を制作し続けいているドイツ第2の都市ハンブルグ・ドイツ劇場からゲストを招き、モデレーターとの対話形式で大都市における劇場運営の在り方について話を伺います。(劇場パンフレットより)

東京芸術劇場とアーツカウンシルの共同開催であるアーツアカデミーが主催しているのが東京芸術劇場プロフェッショナル人材育成研修。この科目になっている講義へ外部聴講生として参加した。
そのため50名ほどの参加者は、学生から社会人、業界の方まで幅広かったが若干若いように感じた。女性が7割程度と多かった。

ドラマトゥルグという仕事

以下ゲスト略歴である。


上記公式サイトより引用

インテンダント(芸術監督)、ドラマトゥルグ(舞台周りの監修、脚本編集、役者の指導などを実施。プロデューサー+演出補のような役割?)などの演劇用語をたくさん学ぶことになった。

ゲストのリタさんはドラマトゥルグ、ハンブルグ劇場の現インテンダントであるカリン・バイヤーと10年前からコンビを組んでケルン州立劇場の建て直しを実現、2014年にハンブルグ劇場にコンビで着任しヒットを連発しているすごい人とのことだった。理知的で上品なマダムというった風貌だったが、きっと豪腕なのであろう。


上記の方、芸術監督であり演出家のカリン・バイヤー。
現在は政治・経済に非常に関心が高いため、劇場のレパートリーも現代社会・経済を反映したものになっているとのこと。ゲストリタさんは、成長し続ける稀有な演出家であることを述べていた。

また、上記劇場公式ツイッターです。ドイツ語だと、劇場名だと判別がつかないジャパニーズ力。
劇場のウェブサイトはこちら。日本人である役者原サチコが所属している。

なお、ドイツ演劇の実情は下記レポートが非常に詳しいので、一読をオススメする。
ワンダーランド大泉七奈子「テアター・ブレーメンで働く

ハンブルグ劇場

ハンブルグ劇場の成り立ちと、構成が興味深かったので紹介したい。ちなみにハンブルグは以下の場所にある。講演を聴きながらそっと調べたのは内緒だ。

ハンブルグ劇場
ー1900年に市民の手によって設立、ハンブルグ州立、市立劇場(ハンブルグが市であり州である都市州のため)である。
ー建物ネオバロック様式。ハンブルグ中央駅の裏側。中央駅の真裏にあり、100年以上の歴史。
ー1,200席のメイン劇場はウィーンのブルック劇場と並んで、ドイツ語圏の中では演劇の劇場として最大
大劇場(1200席)、かつての画工場であるマーラーホール150席の中劇場、小規模スペース60席を有する。
ー現在劇場で働いている正規社員は340名、30~40名の役者・アンサンブルが所属する。
ー企画ごとに100~150名の客演、演出、舞台美術、録音アーティストなどが参加する。
ー1年間に制作される新演出作品は8~10作品が大劇場、4~5マーラーホール、小劇場で1~2作
ー2013/14シーズンから4シーズン目のカリン・バイヤーは久しぶりの演出家の総監督。前任者はドラマトゥルグだった。
ードイツ劇場はレパートリー制、毎日日替わりで、年間500回の上演回数
2005年から若い人のための演劇部門を設立その名もヤング劇場。トップはクライス・シューマッハ。
ヤング劇場は専属役者が7名、ゲストも含めるともっと多い。
ー2019年にバームベック地区に若者専門劇場が出来る予定。
(講演より)
まぁ・・・と嘆息しか出なかった。日替わりの舞台、正規社員と板付の役者・アンサンブル、年間上演回数500回!なんと潤沢なことでしょうか。しかもだよ、若者のための専用部署が立ち上がって、さらには若者向け作品専用の劇場が出来るとは!

ハンブルグは芸術都市

ここから、レパートリーの話になっていったのだが、まぁ〜、ほ〜、へあ〜と口が開きっぱなしだった。単純に演劇があって観に行けるから豊かだと論じるつもりはないが、そんな豊かな世界もあるのだなぁ。

なんとハンブルグにある劇場は以下の通りとのこと。
公的な演劇の劇場は3つ。3つ!!!
本講義のシャウスピール劇場、コンサバ演目の多いタリア劇場、専属のアンサンブルはおらず音楽も含めて様々な作品を作成するカンプナーゲル工場劇場。
演劇の劇場は民間も入れると60個。60個!!!
また、ハンブルグオペラとハンブルグ・バレエ団の本拠地ハンブルグ州立歌劇場もある。

見てください!3つの公立演劇劇場に豊富な民間劇場!なんと!オペラとバレエの有名劇団もついてきますっ!!!

感嘆のあまり通販みたいな口調になってしまったが、ハンブルグ市の人口176.3万人に対してこの手厚さである。ちなみに日本でも数少ない制作機能を有する世田谷パブリックシアターがある世田谷区の人口が89.09万人、さいたま市が126.4万人、横浜市372.5万である。(以上、グーグル先生調べ)

ハンブルグはベルリンに次ぐ第2の都市なので・・・大阪にそれだけの劇場が乱立しているのを想像すればええんとちゃうか。

年間35億円の税金投入

ゲストスピーカーの率いるシャウスピール劇場には年間2,700万ユーロ、約35億円の税金が注入されているそうだ。チケット収入は大劇場公演1回で1万ユーロ、約133万円/大劇場1公演とのことなのでチケット収入は全部合わせても数千万〜数億円程度、到底チケット収入では及ばないほどの補助が出ている。
劇場が公共サービスの一環として運営されいるのがよくわかった。しかも、こういう劇場がいくつもあるねんで・・・オペラなんてきっともっと補助ついてんねんで・・・

販売促進・プロモーション畑の端っこにいる筆者の個人的な金銭感覚だと、タレントを利用したCM作成・放映に数億円〜青天井、大手広告代理店のチラシデザイン作成に数十万円〜数百万円、数人の人を雇って3ヶ月働いてもらうのに数百万円、WEBアプリの作成に数百万円、システムの構築に数億〜数千万円、サービス開発に数億〜数十億円、、、ぐらいだろうか。自分自身のお仕事金銭感覚からすると、35億を自由に舞台芸術につぎ込めるってなんでも出来るやんけ!・・・てか、1つの劇場で35億プラスチケット収入ってどんだけ〜・・・と圧倒される数字だ。

▼演劇の費用についての詳細は下記ブログの記事が詳しかったです。
六角形「某日観劇録」芝居の費用を計算する

日本の文化関係の費用で考えてみると、平成29年の文化庁の年間予算が1042億円、その中の「I 豊かな文化芸術の創造・ 活用と人材育成」カテゴリで202億円、うち「2 文化芸術創造活動への 効果的な支援」で59億、さらにそのうち「1 舞台芸術創造力向上・発信プラン」39億円なので・・・日本の国家予算と比較しても遜色ないような金額が、ドイツの1都市の1劇場に投入されていることになる。

文化庁WEBサイト「文化関係予算」より

世界有数のお金持ち国の第二の都市と、高齢化で国内市場も縮小の一途を辿り、国際的な存在感も斜陽の日本を比較するのも気がひけるが、それにしても羨ましい限りである。

現代の政治・経済に迫る攻めのレパートリー

今回の講演で強く感じたのが、現代社会・生活と地続きである劇場、ということだった。総裁カリン・バイヤーの方向性から、ハンブルグ劇場は政治経済を反映した作品を多く上演しているとのことだった。

過去脚本・古典でも現代社会を意識

例えば2015年の大きなテーマは「難民」。ヨーロッパの一大受け入れ国であり富豪都市でもあるハンブルグにも、大量の難民が押し寄せた。これを過去脚本である、セルビアの難民が第一次世界大戦を引き起こした脚本を利用して演出した。一等客室の人が難民を見る目が、現代のハンブルグと通じるものがあったからだ。
他にも、ヒステリアという作品ではドイツの不安を表現した。ポピュリズムの高揚、過剰な不安、などを表現したかった。
Tartare noirという作品ではカニバリズムがテーマだった。これは、カリン・バイヤーの政治理解のメタファーとしての上演だった。ドイツの豊かさは第三世界の搾取なのでは?という彼女の課題意識をカニバリズムで表現したのだ。(講演より)

現代の状況と重なる過去脚本・古典を利用することで、現代社会の雰囲気をあぶり出すことができるというのは、筆者にとっては目からウロコが落ちるような理解だった。

例えば、現在の少子高齢化に対する若年層の不満を過去の演劇作品で表現すると、どの脚本でどんな演出になるのだろうか?
演劇の系譜や演目内容の知識が薄い筆者では答えられない。

また、演出家の政治理解や問題意識をメタファーとしての演劇で表現するというのにも唸った。演劇表現、演劇作品への理解だけでなく、政治や経済への理解、解釈、問題提起ができないと作品が作れないのだ。
そして、それを楽しむ観客にも同じ水準の教養や読解能力を要するわけで、、、なんて高度な世界なんだ

欧米諸国の相対的な地位低下と中国を代表とするBRICSの台頭に対しての、現在の国内企業の状況を比喩で表現するとどのような生き物や装置になるだろうか?

筆者自身、全然答えを持ち合わせていない。政治情勢や経済の仕組みに関する理解も足らないし、自分自身で意見を述べられるだろうか。

「日本は芸術に対しての関心も資金も全然かけていない。」とよく言われるが、果たして、芸術だけなのかな?とハッとする思いだった。もしかして、アートだけではなくて、実世界の状況だって無関心なのでは・・・

今年の注目作品Am Königsweg

2017/18年度で最も注目を集めていた作品が、10/28初演、ノーベル賞作家イェリネック原作のAm Königswegとのことだった。英語だと「By the King’s Way」、日本語だと「王道、王のやり方」となるだろうか。ピンときた方もいるかもしれない。ドナルド・トランプをモチーフにした作品とのことだった。

ハンブルグ劇場公式ウェブサイトAm Königsweg

上記ページに飛んでいただくとわかるのだが、出演者や装置に至るまで目が潰されて流血しており、、、痛烈な風刺が写真だけでも伝わってくるようだ。

以下は公式サイトの作品紹介より引用・和訳。

舞台開始直後から、語り部は目が潰されて流血しており、のちに口も同様に潰されて流血する。王が盲目のオイデプス王(父を殺して母と交わったため自分で目をえぐり出したギリシャ神話の王)として入場する。王はプロローグを語ってすぐに消える。しかしその後、王はゴールデンタワーの小さなガーデンチェアに座って、彼の金の家族と一緒に金のカップから飲み物を飲んでいる。
一方、彼の支持者と敵対者は、パンチとジュディ(イギリスの人形劇)のようにお互いに叩き合っている。
我々はどこにいるのだろう? 怪物恐怖絵画の中? くだないリアルテレビショー? 出来の悪い英雄映画の中? スーパーヒーローのアニメの中?

トランプのパフォーマンスに満ちてこれ見よがしな振る舞いは、イェネリックの素晴らしいパロディの格好の材料になった。絶望感と無力感、そして衝撃は以前として爪痕を残している。白人至上主義グループが新たに誕生して嫌悪と怒りに満ち、そしてナショナリズムとレイシズムについてもゾンビの怪物のように古代の墓から蘇ったのだ。

トランプの登場とともに激しくなったナショナリズムとレイシズムを、古代の王が登場することで表現したということが読み取れた。また、目と口が潰されている語り部とは、観客自身なのだろうか。

劇場の世論形成機能

先ほどの「By the King’s Way」にしても、市民のための劇場のため市民の生活に根ざした作品であることは常に制作側が意識しているとのことだった。
この意識、日本の劇場、観客にあるのだろうか。少なくとも私はなかった。「現在の社会を反映しており、自分自身の考えを深められるのか?」なんて考えず、己の欲望のままに作品を選んでいた。

「劇場に人が来ない」という前に、もっともっと受け入れられるための工夫が劇場も演劇ファンもできるのではないか?と反省した。世論形成の場、政治経済の理解のための劇場であるからこそ、きっと大量の税金も投入されるのだ。テレビや新聞と同列のメディアとしての劇場、そういう地位を目指さない限り、日常の一部に劇場が入り込むことは難しいのかもしれないと思った。

なお、ハンブルグの世論形成では他にも、公共放送2局ARD、ZDFが重要で総選挙前には1日中候補者のトークショーが実施される。団体、教育機関、社会人学校、労働組合の団体の講習、団体活動の世論形成が多い、とのことだった。

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