「ディア・エヴァン・ハンセン」感想3@MusicBox Theatre〜脚本・歌詞編‎

どもども喫茶店や作業スペースでないとブログが進まないケイです。

前回前々回とまさかの愛が溢れすぎて3回に別れてしまった、ディア・エヴァン・ハンセン(以下DEH)の感想の完結編!
アイキャッチの写真は2階席最前列からのステージの様子。とにかく舞台まで近いのが伝わるでしょうか。

前回と前々回はこちら。

「ディア・エヴァン・ハンセン」感想@MusicBox Theatre‎1〜全体とキャスト編

2017.11.20

「ディア・エヴァン・ハンセン」感想@MusicBox Theatre‎2〜クリエイター編

2017.11.24

ちなみにDEHのミュージックボックスシアターとCome From Awayのジェラルド・ショーンフェルドシアターは道路を挟んで向かい。

トニー賞を争った名作たちがひしめき合っているのがブロードウェイなんだなぁとしみじみ感じて写真を撮ったのだった。

現代の寓話として

巧みな脚本・歌詞によだれが・・・。演劇としての見応えをずっと訴えていてるが今回は歌詞・脚本編をお届けする。弱小演劇部出身、ストリートプレイも愛する者としてこの作品のどこに心を奪われたのかを語りたい。

なお、11月21日に発売開始となったオフィシャルファンブックThrough the Windowからも、英語と格闘しつつ紐解いていく。

左がギプスをイメージした白い表紙で汚れやすいことこの上ない公式ファンブック。トニー賞受賞時期に企画されたであろう、トニー賞までの軌跡をスタッフ目線で豊富に語られている。
なお、DEHのあらすじの詳細はこちらのサイトが詳しいです。

とにかく完璧なタイトル

エヴァンはセラピーのために自分宛の手紙を書いている。この手紙が一連の出来事が起こるきっかけになるのだ。

まずその書き出しとエピソードが非常に印象的だ。タイトルにもなっているDear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)だ。
この手紙の書き出しが全てのエピソードの原因であり、しかも作品のタイトルにもなっている。
一度聞いたら忘れない素晴らしいフレーズだがそれだけでない。この作品のテーマである「自己受容、帰属意識」をまさに言い表した表現なのだ。

作品全体がエヴァン自身ひいては観客に向けた一つのあり方の提示となっており、それが端的に表現されている見事なタイトルだ。

演出のマイケル・グライフも「エヴァンが農園で語るその風景を、作品を通じて観客は体験することになる。その体験により、傷ついた心が癒される、そのような机上の空論から現実への感情の昇華もクリエイティブの本質の一つだ」と述べている。

また、手紙には続きがある。

Dear Evan Hansen, this is gonna be a good day and here’s why…
親愛なるエヴァン・ハンセンへ。今日はいい日になりそうだ、なぜなら・・・

このなぜなら・・・のあとにうっかりゾエへの恋心を書いてしまうところから、話はスタートする。
ちなみにブロードウェイ版ではセラピーとしての自分への手紙となっているが、当初の案ではセラピーのための手紙ではなく、作文コンクールのためのの手紙だったそうだ。このコンクールのくだりは、ブロードウェイ版でも少しだけ残っている。

出典:Dear Evan Hansen: Through the Window

エヴァンはなぜギプスをしているのか?

映画や演劇の世界では怪我や故障で、機能不全や崩壊を表現することが多い。
例えば、舞台上に設置された水漏れの直らない冷蔵庫=機能不全の家庭(by二兎社「兄帰る」)、新居の天井の染み=カップルの不調和の始まり(by映画「ラ・ラ・ランド」)など、怪我や何かしらが壊れている状況というのは注意が必要だ。
なぜなら創作の世界では実生活と違いうっかりの不調はなく、意図の有無に関わらず何かしらの表現であるからだ。

今回のエヴァンは木から落ち左手を折ってギブスをはめて登場するが、同様に彼の内面は傷ついて孤立しているのだ。
もちろん(作中そう明示はされていないが)自殺しようとして木から飛び降りて、怪我をしているという文字通りの意味もある。比喩が多すぎると抽象的で迫力がないし、具体が多すぎると観客が感情移入できなくなっていく。この暗喩と具体のバランスがとにかく絶妙なのだ。

ギブス
 暗喩:心の傷

 具体:折れた手

このギブス姿は1幕のみで、彼女も友人も名声も手に入れた2幕最初には外れている。もちろんギプスが取れることで、エヴァンの自尊心が回復したことを察することができるのだ。

他にも以下のようなものがある。

自分宛の手紙
 暗喩:自己評価・自己肯定

 具体:嘘のエピソードを書いてしまいトラブルになる手紙そのもの

木から落ちる
 暗喩:大きな失敗をする

 具体:文字通り木から落ちる

具体的な表現で物語は進行しながらも、同時に暗喩の部分を観客に味あわせるような物語になっている。想像の余地の大きさにより、観客がそれぞれの経験や気持ちをオーバーラップさせながら観ることができるのだ。

現代の寓話と言ってもいいような時代の空気、苦しみを的確に捉えて表現されている舞台に心奪われる。

有名曲Waving Through a Windowの歌詞である「窓から手を振っても気づかない」という部分も、「SNSというスマホをタップしても自分を認めてくれる人はいない」という表現の比喩であり、最終的な作品メッセージ「You’ll be found.(きっと気づいてもらえる。1人じゃない。)」へと繋がっていく。

キャッチーな比喩表現たち

歌詞には他にもキャッチーなフレーズがたくさん出て来る。
特に「木から落ちる」「太陽の光をあびる」という表現で、自分が傷ついたこと、周囲に認められて自分自身を認めて生きることを暗示しているのに唸った。

今回はこの2フレーズに着目して、各歌の歌詞を見ていきたい。

2曲目「Waving Through a Window」

‘step out of the sun, because you’ve learned’
やけどしちゃうから、日の当たるところを避けるって学んだんだ。
‘When you’re falling in a forest and there’s nobody around
Do you ever really crash, or even make a sound?’
木から落ちても誰もいなかったじゃないか。
そんなんで、本当に怪我をした、音を立てたって言えるのか?

と自分自身の肯定感のなさを、「日の光を避ける」「音を立てない」と表現していたエヴァン。

3曲目「For Forever」

‘And I suddenly feel the branch give way
I’m on the ground/ My arm goes numb/ I look around
And I see him come to get me/He’s come to get me
And everything’s okay
‘All we see is light/ ‘Cause the sun burns bright
We could be alright for forever this way
Two friends/ True friends/ On a perfect day’
僕が地面に落ちて、腕も動かなくなって、でも彼が来てくれて、全てはうまく行ったんだ。
僕たちは光を浴びて、太陽が輝いていて、それでずっと大丈夫だと思ってたんだ。
二人、真の友達、この全てが満ち足りていた日。

と、自分とコーナーの友情を「木から落ちてもそばに来てくれた」「二人で日の光を浴びていた」と歌うことになる。
これは農園の風景でありながら、傷つくことや失敗があったも、そばにいて寄り添っていてくれる友人がいたから乗り越えられたという心象風景だ。しかも全部エヴァンの嘘なんだぜ・・・心から切望している嘘・・・泣ける。

このシーン、マーフィー家のリビングで机の上に盛られているリンゴを見て、エヴァンは即興で嘘を思い付く。脚本を読んでいた時の予想とは異なりセットも地味な食卓のまま、照明もピンスポットではなく明るいまま淡々と進行していた。途中の曲調が盛り上がる部分でエヴァンが席を立つくらいだ。そもそもそれまでは、他の3人と食卓に着いて座りながらこの歌を歌っている。この薄味加減・・・
このドラマチックな切ない曲でも演劇部分を尊重して演出を抑える舞台作りが、ミュージカルであって演劇であるようなクセになるようなバランスをもたらしているのだと思う。

また、大きな動作やダンス、照明など全く演出効果の応援を受けなくても1曲聞き惚れさせるキャスト陣の実力ありきの演出とも言える。長い独唱は観客が飽きやすいからだ。

エヴァンラスト曲「Wards Fail」

そして嘘は大きく軋んで行き、最後には全てがダメになる。

I never meant to make it such a mess
I never thought that it would go this far
こんなことをするつもりじゃなかった、
こんなことになるなんて考えもしなかったんだ

Cause if I just believe
Then I don’t have to see what’s really there
だって、自分でも信じたかったんだ。そうしたら、現実を見なくて済むから。

‘Cause I’ve learned to slam on the brake
Before I even turn the key
Before I make the mistake
Before I lead with the worst of me
I never let them see the worst of me
僕はとにかくブレーキをかけて来た。キーすら回さないで。
そしたら間違えなくていいし、自分に向き合わずに済む。
自分自身が認められない最低なところを人目に晒さず隠して来たんだ。

※この部分は前半のWaving Through a Windowのリフレイン
もともとのテスト上演時にはこの前のパートで曲が終わっていたが、どうしてもエヴァンの気持ちの吐露が足りないため、付け加えようとすると自然とWaving Through a Windowに行き着いたそう。この曲以上にふさわしい曲はないと。

‘Cause what if everyone saw?
What if everyone knew?
Would they like what they saw?
Or would they hate it too?
Will I just keep on running away from what’s true?
今、みんなの目にはどう見えているのだろう?
好き、それとも嫌い?
僕はまだ真実の姿から逃げ続けるの?

All I ever do is run
So how do I step in
Step into the sun?
Step into the sun
全てが明らかになってしまった
どうしたら、日の光のもとに戻れるのだろう?

自分のSNS人気のもとである嘘の友情がばれ、友人も恋人も家族のようなつながりもなくなり、「自分の嫌なところから目をそらし続けて来た」「どうしたら日の光のもとに戻れるのか」と歌う。エヴァンの様子については第1回記事をご参照ください。

ファンブックのこの歌へのコメントにハッとした。「エヴァンがこの歌(Words Fail)を歌い始めるきっかけは、最初に嘘をついた(For Forever)のと同じ理由なんだ。マーフィー家が言い争っているのを止めたかったんだよ。」このコメントだけでまず泣ける。繊細で逃げグセのあるエヴァンだけど、本来はとても優しい性格なんだよね。
そして主人公の動機まで計算された展開に納得。確かに、エヴァンって自分で「全部嘘だ!」って言う度胸のあるキャラではないからな。

喜劇・悲劇に関わらず、行き違いや偽りがストーリーの起因になっている作品は自然と「どうバレるのか?」「その時登場人物たちはどうするのか?」がクライマックスになる。今回の作品は後半のSNSでのバッシング展開でややお話がもたつく印象があるのだが、エヴァンに主軸を置き、彼が自分で告白することにこだわったこそのストーリー展開なのだとファンブックを読んでいて腑に落ちた。

小心者のエヴァンを追い込んで自分で言いだすようにするには、大掛かりなバッシングとその後のマーフィー家の言い争いが必要だったのだ。
SNS上で嘘をついていたことも拡散してエヴァンが非難される方が自然な展開に思えるが、それではエヴァンが自分自身と向き合うことにならないのでこのマーフィー家へのカミングアウト展開になったのだろう。

この曲と次のレイチェル・ベイ・ジョーンズ扮する母ハイディの「So Big So Small」で、もはや必ずサントラでも泣いてしまうのだけど・・・。この「So Big So Small」も当初の台本には無かったが、テスト上演の時に付け加えて見たら、あまりのしっくりさにみんながびっくり仰天した(意訳)らしい。

ラスト曲「Finale」

そして、筆者がエンドレスリピートしてしまう最後のシーンでは、自分への手紙形式の独白で幕切れとなるのだけど、このセリフが今まで散りばめられたキーフレーズを全て回収する形になっており、強く強く胸を打つのだ。

Dear Evan Hansen,​
Today is going to be a good day. And here’s why:
because today, today at least you’re you and—that’s enough.​
親愛なるエヴァンハンセンへ
今日はいい日になりそうだ、なぜなら、
隠れも嘘もついていない、君は君だ、それで理由は十分だ

Then maybe he’ll start climbing one branch at a time
and he’ll keep going, even when it seems like he can’t find another foothold.
Even when it feels hopeless, like everything is telling him to just let go.
This time, maybe this time he won’t let go.
He’ll just hold on.
He’ll hold on and he’ll keep going.
He’ll keep going until he sees the sun.
もしかしたら他の誰かが木に登って、
もうそれ以上進めなくて、絶対に落ちると思う時が来るかもしれない。
それでも、彼は木にとどまり続けるんだ。
そしてさらに登っていく。日の光が見えるまでずっと登っていくんだ。

実際の舞台では、「もう落ちるかも」という部分と、「それでも登っていくんだ」というセリフの間に一瞬間があった。この間で視線をあげて、自分を受け入れて再び希望を持とうとするエヴァンに涙が溢れて止まらなかった。客席も嗚咽に満ちていた。
決して、大円団の最後ではない。でもエヴァンにはこのほろ苦いラストがふさわしいのだ。

この部分は作品のメインメッセージにもなっているので、上記のように折々につけて公式やファンがツイートしている。

このフレーズを見ると作詞家吉元由美の「人生は、物語です。特別に波乱万丈な人生でなくても、平凡で何ひとつ成し得なかったと言っても、ひとりの人間が年を重ねていくことが平坦な道であるはずはありません。」という言葉を思い出す。
エヴァンの言葉に自分自身の生き方に対する優しい眼差しを感じるからだろう。

ベン・プラット自身はトニー賞授賞式スピーチで「他の誰かになろうするなんてもったいないことしちゃダメだよ。君の普通じゃないところこそ、君を輝かせるのだから。(”Don’t waste any time trying to be like anybody but yourself, because the things that make you strange are the things that make you powerful.”)」と述べている。

なお、ラストの曲は1幕最後の曲「You’ll be found」のリフレインとこの「For Forever」で迷ったそうだが、You’ll be foundで締めくくられていたらここまで夢中になることは無かったと思う。

感想蛇足編

その他作品を見ていた感じた感想をつぶやき形式で置いておきます。
これを全ておこすと1年くらいかかりそうなので、この辺で3回に渡った感想記事は一旦お開きにしようと思う。

・エヴァンの孤独は本当に心の奥に響くような、癒し系ミュージカルかと思ってたけど、えぐって見せて大丈夫だよという、荒療治みたいなミュージカルだった。
・1幕最後の曲は、You’ll Be Foundと言われているけど、全然希望100%という描き方はしていない。
 ハイディは戸惑っているし、エヴァンやマーフィー夫妻がラブラブだからこそのアレーナのポツンとした姿が強く焼きつく。
・客席からすすり泣き。最初のWaving Through a Windowのリプライズとスピーチシーン。
・You’ll Be Foundで拡散されるベンプラットが若い笑
・各家の食卓の装置は自動運転でグリグリ動く。
・インターミッションの女子トイレは涙を拭っている人続出。
・後半もSNSの電話の音でスタート!!
・ハイディとエヴァンとの喧嘩で泣けるでしょ(本当は2人とも言いたく無いんだろうけど、それも言わないと気が済まなくて言い合うつらみ・・・)
・ハイディがエヴァン進学へのマーフィー家からの援助を断るところもそれぞれの心境考えるといたたまれ無い。
・ゾエはこう、美少女ではない普通の子というキャスティングにリアリティがあった(失礼)。声がしっとりと美しい。
・近い舞台ゆえにエヴァンの痛みから逃れることができなくて、本当にしんどい後半。キャストのあまりの120%に、真剣に向き合わざるを得ないような力があった。
・キャストや演奏がとても丁寧だと感じた。昨日のアラジンはとにかく衣装や演出を駆使して多少荒くても観客を高揚させるのが目的だとしたら、こちらは本当に伝えたいことを1つ1つ丁寧に積み重ねるような…
・コナーのエヴァンに対する「君は全てをなすがままにしただけだ、何もしていないじゃないか。」ってセリフ、こう…突き刺さるものがあるよね。リスク込みでの挑戦とか自分でなんとかしようとせず、表面的に上手くやろうと逃げていなかったか…
・So Big So Smallもね…泣けるでしょ、泣くしかない…
・ラストまで予想以上に救いが無い。辛口。自分自身の寂しさと向き合わざるを得ず苦しい。
・SNSのフィーチャーが思ったより控え目。SNS無しに、生きるための孤独自体をテーマにしたと言ってもいいかもしれない。

前回と前々回はこちら。

「ディア・エヴァン・ハンセン」感想@MusicBox Theatre‎1〜全体とキャスト編

2017.11.20

「ディア・エヴァン・ハンセン」感想@MusicBox Theatre‎2〜クリエイター編

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