どもども。もう台風に期待なんてしない!ケイです。
2012年に「The Library of Life まとめ*図書館的人生(上)」を観劇して衝撃を受けてから早5年。毎公演なんとか通っている劇団「イキウメ」の待望の本公演。
作風は日常に潜むミステリーやSFを取り上げることが多く、作家でいうと貴志祐介や道尾秀介などの作品のように伏線があるかっちりした構成・ほんのりホラー・後味の気持ち悪さが好みの人にはどストライクの劇団だと思う(筆者です。
なお、脚本の面白さに加えて劇団の役者も必見。基本的に同じメンバーで脚本が構成されており、毎回お馴染みの役者がお馴染みだったり、新鮮だったりする役を演じている。イキウメ作品を見ていると、作・演出と出演者は両輪なんだなぁとしみじみ思う。
【散歩する侵略者】作・演出 前川知大、出演 浜田信也 安井順平 盛隆二 森下創 大窪人衛 / 内田慈 松岡依都美 栩原楽人 天野はな 板垣雄亮、東京公演10月27日-11月19日シアタートラム、大阪公演11月23日-26日ABCホール、福岡公演12月3日北九州芸術劇場 中劇場。 pic.twitter.com/Ts7Y25yGpL
— イキウメ/カタルシツ (@ikiume_kataru) July 8, 2017
イキウメの成功
5年前すでに人気劇団だったと思うが、筆者が通っているこの5年でもチケットが体感1000円以上値上がり、作品が次々と映画化され、脚本が芸能人主演で上演され、劇団が商業的に成功するとはこういうことなのか、という姿を間近で見させてもらっている。
芸能人主演作品としては「太陽」や「プレイヤー」、「関数ドミノ」、「散歩する侵略者」などが上演されている。だがしかし、だよ。芸能人が出演するチケットは高い。応援している劇団の知名度が上がって嬉しい一方で、予算の関係で前川作品をコンプリートできないことにハンカチをギリギリ握りしめる毎日である。
作・演出の前川さんの略歴は以下の通り(公式サイトより引用)。
前川知大
1974年生まれ 新潟県柏崎市出身。活動の拠点とするイキウメは2003年結成。
超常的な世界観で、日常生活の裏側にある世界から人間の心理を描く。(中略)
映画『太陽』(入江悠監督)『散歩する侵略者』(黒沢清監督)の原作など、
小説『散歩する侵略者』は、2017年文庫化(角川文庫)。
今回の「散歩する侵略者」は劇団の代表作品であり、この夏に長澤まさみ・松田龍平主演で映画化された作品。映画に合わせた劇場公演ということで、劇団側もかなり気合いの入った作品となっていた。
場所は小劇場ゴーアーの御用達、三軒茶屋の世田谷パブリックシアター内にある小劇場「シアタートラム」。ちなみに、イキウメ作品は今回のシアタートラムと、池袋の東京芸術劇場中小劇場「シアターイースト」で観ることが多い。
これぞイキウメ!な公演
なんと、今回は直前のニューヨーク行きにかまけていたらチケットをとり損ね&完売という悲劇が発生。執念深くWebサイトを巡回し、なんとか追加販売で滑り込み!初日!なんと3列目の好立地。浜田さんの強化された筋肉までバッチリ見えましたとも。
ミステリー&日常という前川脚本の持ち味と、劇団の役者さんのキャラが生かされた役・演出でイキウメスキー垂涎の作品に仕上がっていた。
脇の出演陣も豪華
前述の通りイキウメは毎回劇団員プラスゲスト数名での公演だが、今回はゲストがますます芸達者&豪華だった。
筆者は舞台と見た目は切り離せない要素だと思っているのだが、今回のゲスト出演者はみんな見目も麗しくオーラのある方ばかり。美女美男が出演していて、至近距離からは眼福でしたな。これならチケット代が高くなってもしょうがないなぁというような華と立体感が舞台に添えられていた。
イキウメは劇団員のアテガキで書かれている面も多く、その持ち味が魅力となっている劇団。特に今回も主演だった2人。浜田信也はどこか人間離れした雰囲気の持ち主だし、安井順平は場の空気を引っ搔き回すチンドン屋のような役が似合う(褒め言葉。
ただ劇団が有名になればなるほど、客層は幅広に、初見の人も増えていく。期待値がコントロールできなければ悪評にも繋がるわけで、劇団板付の役者としても背負うものが増えていくのかなと最近は感じていた。今回の華やかな外部ゲスト参入という手法は劇団としての可能性が見えたのではないかなと思った(ファンにありがちな謎目線。
また、各方面でささやかれているが大窪人衛がクレイジーな宇宙人を好演していた。本人のキャラとしてどうしても中高生の少年を演じることが多いが、今までの公演の中で一番輝いていたし、新たな役の方向性も見えたと感じる(ファンにありがちな謎目線2。
劇団初!?着替え
筆者が見ている中では初めて?皆が次々着替えていた。多い人で4回、出ずっぱりの主人公でも1〜2回。日常の喪失という作品のテーマに対して、この着替えによる時間経過の重み付けが効いてきて非常に良かったのではないか。じわじわ日常が失われていく恐怖を、じわじわ着替えることで感じる時間経過で表現していた。そしてコーディネートがみんな可愛めでツボ。
ただ衣装の点数が多かったので、舞台裏はてんやわんやしていたのかもなぁと筆者はそっと思いを馳せたりもしたのだった。
この時代に伝えたい叫びが満載
舞台設定は戦争が始まる直前の日本であり、直接的なセリフとして本気になるのに恥ずかしがるな、気付いた時にはもう遅いんだ、僕たちが言わなくていつ誰がいうんだということが語られていた。当事者意識の欠落の危険性と本音で主張することの重要性を登場人物たちが繰り返し主張していたのが強く残っている。
過去演出版と比較できていないのだが、今回の選挙、ミサイルが飛び交う隣国間の不穏な情勢、日本自体の国際社会での地位低下など昨今の状況をダイレクトに反映することを狙っていたと思う。
得体の知れないもの、戦争でなくてもっと歴史的に大きな決断、その言い知れぬ不安感と、それにもかかわらず声をあげず何となく過ごしてしまうことへの作者の抗議の声だと感じた。
同世代の人間としてはその力強さに涙が出そうだった。エンターテイメントとしての演劇と、主張のある骨太の演出が両立しているその手腕にも感動。
また、劇中で社会底辺の人として描かれている登場人物たちが「戦争だと何かリセットされて良さそう」「戦争賛成だな。だって徴兵も雇用だろ。」と言っていたのも印象に残った。トランプ大統領に投票していた中流階級からは見えなかった人たちを想起させたし、さもありなんと唸るようなセリフ。というか後ろの席の方が実際に唸っていた。
一方で、戦争に関しての「平和は戦争の準備だ」という一連のセリフには違和感があった。なんというか作品全体が社会情勢を反映しているのに、戦争に対する意識だけは非常に内向きのような。。。
世界的に見れば、日本の少子化、欧米の相対的な地位低下とそれに伴うマーケットの縮小がこの言い知れぬ不安感の元凶であり、日本が平和であった時代も世界では戦争はずっと継続していたので。
観客の反応が良い
初日ということもあり、もうなんというか好きな人たちが来てまんねん、という感じだった。
とにかく笑うし、応援している役者さんのセリフではにやにやするし。そして最後は泣くという。どんなに良い作品でも開始から客席が温まるまでは少し時間がかかる場合が多いが、最初から客席のボルテージ最高潮だったのが珍しかった。(そして筆者ももちろん開始前からテンションだけは常にクライマックスだった。)
ラストが切ない
ネタバレになるので気になる方は劇場でぜひ。ミクロでは主役2人の愛情のやりとりが胸に迫るし、作品全体の文脈に当てはめると「争いを無くすのは無償の愛なのだ」というメッセージをクロスさせていて、唸るような巧みさを感じた。
最後にスカッとハマるような。こう、好き…ってなるよね。また行こう。そうしよう。。。
過去作品ポスター祭り
ちょうどシアタートラム20周年で、過去ポスターが多数掲載されていた。イキウメの過去公演も発見★
2009年「奇ッ怪」
散歩する侵略者2011バージョン。
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