ナショナルシアター・ライブ「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」@ヒューマントラストシネマ有楽町

どもども。花粉で涙が止まらないケイです。

ライブビューイングの感想を残しておきたい。まずは、イメルダ・スタウントンの迫力ある演技を堪能できるこちらの作品!

(アイキャッチ画像は公式サイトよりお借りしました。)

index

  1. ヴァージニア・ウルフって?
  2. 豪華俳優陣を堪能
  3. 息子は何を表すのか?
  4. 最後は救いなのか?

ヴァージニア・ウルフなんかこわくない

原題は「Who’s Afraid of Virginia Woolf?」で、「Who’s Afraid of big bad Wolf?(狼なんて怖くない)」の替え歌である。この歌は最初と最後に歌われる。日本でいうと「当たり前田のクラッカ〜」みたいな感じだろうか。

ヴァージニア・ウルフって?

イギリスの小説家・評論家(1882年〜1941年)の女性。与謝野晶子が1878年〜1942年のお人なので、ちょうど活動が同時代(第1次世界大戦〜第2次世界大戦の始まりまで)である

20世紀モダニズム文学の主要作家の1人であり、ブルームズベリー・グループというロンドンの芸術家サークルの主要メンバーだった。
知的エリートであり、メンタルを病みつつ大きな業績を残した重要な文学者というイメージだろうか。

ブルームズベリー・グループとは、1906年から1930年ごろにかけて、ロンドンとケンブリッジを中心に活動したイギリスの知識人、芸術家のグループ。(中略)彼らの多くは名門の子弟で、19世紀イギリスの道徳主義に鋭い批判を向け、自由で懐疑的な知性、美と友情の尊重を信条とした。その活動は多面的で、それぞれの分野で20世紀文化の開拓者となるが、知性への信頼と洗練された美的感覚が一貫して認められる。コトバンクより

日本の文学や舞台にも影響を与えている。

筆者自身はNHKのBSプレミアムで英国ロイヤルバレエ団「ウルフ・ワークス」を見ていたので、このイメージが強い。「ウルフ・ワークス」は彼女自身とオーランドーなどの作品をテーマに描いたコンテンポラリーバレエだ。革新的だが不安定で、重苦しい世界観が表現されていた。
下記動画に作品の音楽・振付・美術が多く登場している。

ヴァージニア・ウルフのイメージが腹落ちしていたら、この劇の見方も変わったのかもしれないなぁと思ったので、調べたことを残しておいた。

ルーク・トレッダウェイ

筆者がびっくりしたのは、セクシーボクサー新任教授役のルーク・トレッダウェイ。


野心がある実力科学者を好演していたが、なんと「夜中の犬に起こった奇妙な事件」のクリストファー役だった!


自閉症のヒョロヒョロ少年から、自信家の若手教授への転身!夜中の犬は好きな劇なのだが、気がつかなかった・・・。役者ってすごいんだなぁと思ったのだった。

また、ジョージ役のコンリース・ヒルは大ヒット英国ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の腹黒宦官ヴァリスとしてもお馴染みの役者だし、イメルダ・スタウントンはみんな大好きアンブリッジ先生だし・・・とにかく豪華な俳優陣だった。

罵り合いの末に見えてくるもの

舞台転換なしで、夫婦が言葉の応酬をするだけの3時間半。これがあっという間だった。緩急がついて、しばしば笑えて、一流のお芝居を観ましたー!という満足感があった。
しかし観た後は、思い返すのも重苦しい感じがする。

冒頭のインタビューで、「一言では言い表せる作品ではない。現実を映し出す歪な写し鏡であり、観客それぞれが自己投影する。作家のメッセージとしては現実を向き合ってほしいというもの」とあった通りの作品だった。

過去のナショナルシアターライブのフォリーズイェルマと同じように、観た人の分だけ観劇体験がありそうな作品だった。

以下ネタバレがあるので、未見の方はご注意下さい。

息子が何を表すのか?

特に筆者がグロテスクだと感じたのは、夫婦が架空の子供について言い争っているシーンだった。「あの子は私に懐いて、父親をばかにしていた」「あの子は母の支配に耐えかねて、自分を信頼していた」とそれぞれが、キメラのように架空の子供に自分の不満を託して罵り合っていた。
気持ち悪いと思った。

架空の子供をいじくり回しているので見える化されているが、夫婦や家族のあり方、人間関係について自分の見たいものしか見ていないのだなぁ・・・と考えるにつけ、おえーとなってしまった。

マーサが鬼

父の金と権力をかさに着て、しかし承認欲求お化けになってしまっているマーサがしんどかった。ジョージをいたぶりながら、でも全てを受け入れることを求めていて。
ジョージもそんなマーサを侮蔑しながら、共依存してしまっている・・・。子供を殺すシーンも、マーサを追い詰めていて底知れない恐怖があった。
みんな・・・早く寝て!!明日の朝ゆっくり話そ!劇中はずっとそう思ってしまった。

人の心は理不尽だ。平和的解決が1番だと思っているのにも関わらず、心が収まらないから理屈に合わない言動を取ってしまう。劇中では朝を迎えて夫婦の修復が示唆されるエンドだったが、正直2人の行く末は暗闇のように感じた。

救いの無いラストが、ひたすら重かった。知恵と勇気で狼を襲来をやり過ごす、そんな日々を送れるだろうか。それとも、現実に耐えかねて自ら命を絶ったヴァージニア・ウルフのように人生の幕を閉じるのだろうか。問いかけのような歌が耳に残った。

だがしかし、噛めば噛むほど美味しいスルメのような作品なので、骨太の観劇体験自体にはとことん満足した休日となったのだった。

Tohoシネマズ日本橋の突然の閉鎖後、映画館の変更など主催者の方が奔走してくださったおかげで観劇にこぎつけたことに感謝したい。