メトロポリタンオペラ「フィガロの結婚」

ども、台風の中いつもより早起きし、時刻通りの出勤をキメたケイです。今回の台風は口ほどまでも無いというのが、大半のサラリーマンたちの感想ではなかろうか。いつか巨大な台風が来て、全部の電車が止まって出勤しなくても良くなる…そんな日を夢見ているんだぜ。

(photo by metopera)

モーツァルト「フィガロの結婚」

モーツァルトの喜劇「フィガロの結婚」。今はまっているWOWOWでの鑑賞だった。2014/15シーズンの幕開け作品とのことで、心から拍手喝采の作品だった。ちなみに筆者は家のリビングでアリアの度にブラボー!と声を上げ拍手をしていた。(ちょっと寂しい)

舞台設定を1930年代とのことで、衣装はより軽やかになっており、主従関係も封建身分よりも雇用関係の色がより強くなっていた。この時代を後ろにずらしたのが、「階級対立とセックス」(またの名を伯爵のセクハラ大会)という今回のテーマを一層際立たせるような形になっている。

「もう飛ぶまいぞこの蝶々」「恋とはどんなものかしら」「愛の神よ、みそなわせ」など有名なアリアも多く(中略)イギリス演劇界の大御所リチャード・エアによる新演出で生まれ変わった。設定を18世紀から1930年代に移し“階級対立とセックス”をテーマに大胆な演出で楽しませてくれる。指揮は病からみごとに復活した巨匠ジェイムズ・レヴァイン。(WOWOW紹介ページより)

だって、厚手のドレスの上からより薄手のメイド服の上から胸を揉む方が肉感的だしね(もちろんスカートもめくります)。身分よりももう少し軽い雇用関係の方が、手を出される側も選択して楽しんでいる感じがして、距離感がいい塩梅に。

冒頭の序曲では、明らかに伯爵との事後である下着姿の女中が一番に登場して走り去る。重厚なオペラハウスにそぐわない女中の登場で一気に喜劇気分に浸れる上に、作品のテーマ、伯爵の所業を一気に伝える素晴らしい演出。もちろん、今回の歌劇では最終的に伯爵がやっつけられるのだから許されているにしても、国の威信をかけた公演でこういう振り切った演出を入れ込んでくるのがすごいなぁといつも思う。ブラ姿(しかもホックが外れている)の女性は日本のオペラハウスだとできない気がするなぁ。

この伯爵のセクハラの振れ幅が大きければ大きいほど、最後のお灸を据えられる場面が引き立つ。今回のプロダクションはこのコントラストを最大化した演出とも言えそう。

舞台上にお屋敷が出現

舞台装置もスーパー豪華で、大きな盆の上に、庭、伯爵夫人の寝室、大広間、フィガロの部屋、が文字通り建築されていてクルクル回りながら場転をする。直径は約30メートル、高さはざっと20メートルくらい?まさにお屋敷が円形に建っていた。
幕開けでは有名な序曲を背景に、この屋敷が手早く回りながら、重要登場人物が全員登場、曲と舞台上のドタバタ感がシンクロして観客のボルテージは一気に最高潮になる。

そもそも筆者は古典歌劇・演劇の現代演出や時代をずらした演出がツボなので、もうなんというか全体を通じてごちそうさまです!みたいな気持ちに。たまらん。

スター歌手が勢ぞろい

アリア(独唱)、2重唱、3重唱、4重唱、6重唱と様々なバリエーションがあり、スター歌手のフルコーラス状態。耳がたいそう幸せ。作曲もモーツァルトなので、各歌たちもそうだよね、そうやって盛り上がって終わりたいよね〜わかるぅ〜と観客のかゆいところに手が届くような明快できっちり美しい曲たち。(筆者は難しい作品だと寝てしまうオペラスキルです。)セリフもレチタティーヴォ形式でつながれているため、美しい歌声が常に楽しめる。

楽曲はこちらの資料が詳しい。
歌劇『フィガロの結婚』に関する一分析と演奏解釈(外部リンク)

まずスザンナ役のマルリース・ペーターセンの歌声たるや。柔らかいソプラノで、高音まで緩やかに伸びていく。色男の伯爵も、医者のドン・バジーリオも人気者のフィガロもとりこにするお茶目な役なのだけど、歌唱に入るとどうして包容力に溢れていた。伯爵夫人役のアマンダ・マジェスキーは少し角があるはっきりとした歌声なので(スーパービブラートの持ち主)、よく登場する二人デュエットはそれぞれ声質が違ってとても楽しめる。

また、特筆すべきはケルビーノ役のイザベル・レオナード。いわゆるズボン役(かつては高音の男性が演じていたが、今は女性が男装をして演じる役)の代表であり、物語進行と笑いのキーマンである美少年ケルビーノ(もちろんお姉様方はみんなメロメロなんだぜ。美少年はいつの時代も尊い…)。
観客からの期待がある意味一番高い役なのだけど、ハードルを軽々超えてくるような華やかな歌唱。有名アリア「恋とはどんなものかしら」もブラボーとしか言いようがなかった。ちなみにこのシーンはヴァイオリンのピチカートの音を、スザンナがギターを演奏しているような演出にしてあって面白かった。

なんとこの方、このシーズンの次の作品「セビリアの理髪師」では伯爵夫人になるロジーナ役を演じているんですな。ズボン役の美少年から、伯爵に恋する乙女への転身!

ケルビーノ(イザベル・レオナード)「恋とはどんなものかしら」

ロジーナ(イザベル・レオナード)「今の歌声は」

2017/18シーズンのフィガロの結婚でも同じケルビーノ役で登場するみたいなので、今ノリに乗っているディーバなのかな。
それにしても美女ですな。幕間のインタビューで、かなり男役の動きを研究したと述べていた。

最初から最後まで笑いっぱなし

スーパースター達が全力でコントしている本作。普段オペラをあまり観ない母でも大爆笑していたので、メトのお笑いの実力よ…。もちろん客席も大盛り上がり。
ベットの下に何回も隠れたり、間男が隠れている扉を斧でカチ割ろうとしたり、素晴らしい歌唱の途中で余裕で動きを入れいている役者達。ふざけていても歌が唸るような出来栄えだから面白いのだし、ふざけいているように見えて軽々高音を出しているし、至高の遊び感がものすごい。

難役伯爵夫人の掘り下げ

今回の演出は、セクシャルと笑いに重点が置かれているため、最後あっさり許してしまう伯爵夫人にはこれでいいの?という疑問がわかないでもない。しかし、劇中「伯爵の悪行は許せないが、伯爵を愛しているのは変わりなくて不安で、なんとか伯爵を取り戻したい伯爵夫人」という一貫した役作りが効いてきて、伯爵夫人が幸せならまぁそれでいっかとなる結末を迎えている。
そう、伯爵をあっと言わせてやる姉御肌の伯爵夫人ではなく、どっか乙女でプライドもある美貌の夫人というアプローチだったのが新鮮だった。

思ったより長くなってしまったので、この辺で。このおうちでメトはハマりそう。

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