イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出「ガラスの動物園(The Glass Menagerie)」@ITAlive

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新国立劇場の海外招聘が叶わなかった作品「ガラスの動物園」。同プロダクションのオランダ現地からの配信ということで、夜明け前4:00に頑張って起きて視聴した。

◆新国立劇場「ガラスの動物園ページ」
◆ITAの公演情報

来日叶わず、コロナ憎し

配信を視聴して、こんなパワーのある作品を招聘する予定だったのか!と改めて、新国立劇場と小川芸術監督の本気を実感した。

コロナによる延期、それからの改めての来日中止・再延期。調整に尽力した関係者の心境を想像すると、言葉にならない。しかし、2022年春に2022年秋への延期可否を発表するようなので、来日が叶う暁にはぜひ観にいきたいと思う。

イヴォさん演出

噂は聞きつつ、初めてのイヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出だった。

後に見た「橋からの眺め」含めて、容赦見る側無く追い詰めるような、剥き出しの辛さに襲われる演出だった。

作品を通して、自分の家族に対するどろっとした醜い思いのようなものに目を向けざるを得ない感じがした。(感想にも自分の家族感が反映されるように思うので、公開するのがやや恐ろしい・・・)

【演出】イヴォ・ヴァン・ホーヴェ(Ivo van HOVE)
2001 年よりインターナショナル・シアター・アムステルダムの芸術監督を務めている。自身の演出作品(『Germs』、『Rumours』)により、1981年に演出家としてのキャリアをスタートさせた。90年から2000年の間、Het Zuidelijk Toneel 劇団の監督を務める。1998年から2004年には、オランダ・フェスティバルの監督を務め、国際的な演劇作品、音楽、歌劇、およびダンスを毎年上演した。また10年まで、アントワープの劇場芸術部門の芸術的指導者を務めた。
14年にパリ・オデオン劇場で上演したアーサー・ミラー作『橋からの眺め』は、15年ロンドンのヤング・ヴィックにも招かれて絶賛され、ローレンス・オリヴィエ賞・最優秀演出賞を受賞。その後、NYリンカーン・センターでも上演されてブロードウェイ・デビューを飾り、第70回トニー賞・演劇演出賞を受賞した。続いて16年3月より同じくミラー作『るつぼ』(音楽フィリップ・グラス)を演出し、同じくトニー賞の再演演劇作品賞、主演女優賞など4部門候補となるなど、話題作を連発している。

新国立劇場紹介ページより)

怨念の浮かび上がる舞台装置

茶色がテーマの舞台セットと小道具、衣装だった。特に装置は一面ベロアのような布張りなのだが、絨毯絵画のように壁一面に人間の顔が描かれていて、怨念のような怖さが滲む。

多分、この家族自体をガラスの動物園になぞらえて、覗き込まれる自意識を表現しているということなのだと思うが、それにしてもホラー。

また、役者は裸足で過ごしていることが多い(特にローラ)ので、この時点で主役家族3名の脆さが滲み出ていて、すでに辛い。

母が怖い

牛刀で鳥をガツガツ捌いたり、お葬式のような食事風景の中で1人浮かれていたり、ローラへ豹柄のワンピを来させた挙句胸パット入れたり、来客に娘より目立つふわふわドレス着たり、その少女めいたドレスで性的な思い出を動作たっぷりに語ったり・・・とにかく、ホラーというかグロテスクというか母アマンダが終始怖かった。

まぁ、他2人は大人しいので作品に動きをつけるなら母ということもあるのだろうけど・・・。

世界3大映画祭全てで受賞歴がある名優イザベル・ユペールの舞台の支配力ということなのだと思う。生で見てみたいなぁ。
◆wikiの受賞・ノミネート歴はこちら(凄まじい)

家族の距離感がリアル

特に2シーンは、どしっと胸の中に残った。まずは、ビジネススクールに行っていないローラを叱った後でケロッと楽しそうに恋バナを仕掛ける序盤の箇所。
ああ、家族の距離感だなぁとやるせない想いに駆られるとともに、気分屋の母に振り回されてきたローラを象徴する場面だと感じた。
その後息子トムへは甘えも甘やかしも垣間見えるのも含めて、空気感がすごくリアルだった。

極みのクローゼットシーン

また、多くの人の頭にこびりついたであろう、母のクローゼットお着替えシーン。あえて着替えている母をクローゼットの扉で隠すという、しかも結構な長尺母が見えない。
聞き取れない言語なこともあるが、得体のしれなさがマックスで、朝方見ているのが何やら不気味だった。

ローラの足が動く

何箇所かローラが足を引きずる場面はあるが、ローラは歩いて、活発に舞台を行ったり来たりしている。
彼女の障害が、精神的なものあるいは、発達に関するものなのか?と指摘するツイッタランドの皆様の感想にハッとした。
より普遍的な見方ができるように工夫されているのだろう。

痛々しいガラスの動物園

ガラスの動物園を見せるシーンがこの劇のハイライトだと思うのだが、痛々しすぎて見ていられなかった。

それまでジャカジャカ色々な曲がシーンごとに鳴っていたが、このシーンは高音のストリングスのような背景音、そしてガラス像が入っていた扉が光って、どこか厳かな雰囲気だった。

あまりに繊細なローラの世界を剥き出しにしているようで、辛みしかなかった。ああ、見せちゃダメ・・・。

関係ないが、この効果音、もののけ姫のダイダラボッチが朝日に倒れるシーンの音に似ているなぁと感じた。

皆現実に向き合っていないしんどさマックスなので、こちらも映画を見にいく!と逃げ出したくなるような舞台だった。
すごくいい作品を味わえて興奮したが、鋭い演出だったためにゴリゴリに削られて鬱々とした早朝となったのだった。