ナショナル・シアター・ライブ「レオポルトシュタット」@tohoシネマズコレド室町

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新国立劇場の日本版観たのでどうしても見比べながらになる。

役者さんの演技が最高!

思ってたよりシニアなキャスティングだったけど、その分年齢を重ねた姿に迫力があった。
特に、ルードヴィク、ヤーコプ、ラストシーンのナータンを兼ねていたセバスチャン・アルメスト!
ヤーコプも同じ人だったとは!骨格から体つきから違う人のようで、技術が、技術がすごい(語彙。

やっぱりラストは無音!

特にそうだよねっ!と思ったのがラストのシーン。
ワルツがサッとかかるも、1人1人の名前が呼ばれるシーンでは無音、暗い照明。そうだよね!鎮魂と共に、静寂で終わるよね〜!と思った。脚本を読んだ時のイメージに近かったのだ(もちろん拙いイメージより全然豊かに描かれている。)

新国立劇場のレオポルトシュタットは青く美しきドナウがかかり続けていて暗転エンドだった。違和感がありつつも、演出意図は汲み取れるので納得感はあるなと思った記憶がある。
音楽がかかり続けるのは脚本のト書きの指示なので、新国立劇場版の方が脚本に忠実だ。
逆に、ナショナルシアター版の演出は、ト書きを無視したってことになるのだろうか。

一方で、新国立劇場版のクリスマスシーンを再現したエンディングはとても凝っていて(それぞれの名前が読み上げられる瞬間に、後ろでワチャワチャ楽しそうな家族の該当人物が目立つ動きをするような、とてもタイミングを計算した演出)すごくツボだったので、どっちの方が好きとは言い難いと感じた。

芸術の都ウィーンを明確に批判する日本版

日本版を観た第1感想が、「青く美しきドナウをもう2度とハッピーな気持ちで聞くことはないだろう」だった。
劇中何度もかかり、華やかなメロディと目の前の情景との不協和音で、うへぇと感じだからだ。

ナショナルシアター版は、一族の肖像画で始まり、肖像画あるいは遺影で終わるエンド。群像劇ドラマに寄せた演出で、1人1人が粒立っていた。(話が逸れるけど、あの入りだけで家族の群像劇だということが分かるし、最後のシンプルな立ち姿も入りの図を回収するし、開始1秒で良いもの見たなぁと思った)。
家族関係もクッキリと分かるし、最終的にレオポルトとナータンの2人に収束してクロスするところに全焦点が当たっていたように思う。

メッセージとしては、よりニュートラルを装っていたような後味があった。

日本版の方がウィーンに対する批判が明確だなぁと感じたのは、私が日本で生まれて育っているからだろうか。それとも今まで能天気に青く美しきドナウを聞き、芸術の都ウィーン旅行!に行ってきた経験があるからだろうか。(観光客向けコンサートでは100発100中で、青く美しきドナウとアイネクライネナハトムジークがかかる。)

ウィーンに対する観客の解像度の差が、演出に反映されていたように思った。

怯えのシーン

水晶の夜のシーンでは、ナショナルシアター版がより怯えと日常がぶつっと切られる様が感じられた。カメラが寄っていたので、劇場で見るのとは単純に比較はできないだろうけども。

御伽話を読むサリーと、危うい状況に自覚のない一家の対比がドシンと伝わってきた。

クリスマスツリーにダビデの星を飾って降ろす、自費出版の戯曲がグレートルを通じてヘルマンからフリッツに渡る、一家離散シーンでのあや取りの説明が入る、ティーカップの傷を一家の医者が縫い合わせるなど、他にも暗喩がたくさん使われている脚本であり、全体のユダヤ人のエピソードとその散りばめ方、親族の関係や各人物のドラマなど含めて本当に上手い脚本だなぁと改めて思った。

緻密に作られているけど、グレートルの「私がユダヤ人なら結婚してた?」というすごく感情に訴えるセリフもあるし(あのセリフだけでグレートルの愛が伝わるの泣かせるし、前後のエピソード含めて2人が想いあっているのを表現するのツボすぎる)、リーマントリロジーのように機械的な印象を与えない不思議があった。

血縁がくっきり浮かび上がる

前のウッズの中で演じられたイントゥザウッズの時にも感じたことだが、優れた演者・演出だと、骨組みで寝ていたテントがバッと立ち上がるように豊かな空間になるのだなぁと改めて思った。

お坊ちゃんだがやり手のヘルマンと、押し出しの強いエーファ兄妹、数学者のルードヴィクとどこか同じく神経質そうなヴィルマの兄妹など、あ、きっと兄弟姉妹なんだろうな!と思わせるような瞬間があちこちにあって、冠婚葬祭の時に感じる感情が訪れた。(子供の時に参加したお葬式とかって、誰と誰が血縁関係があるかはっきり分からないが、振る舞いや顔立ち、言動でなんとなく理解する、その感覚だ。)

役者のちょっとした演技や行動の積み重ねの結果なのだろうけど、この話を描くに当たって最も重要になりそうな言わずとも人間関係を理解させる技量を見せつけられたというか、なんか良いもの見たなぁというのが改めて感じる。

しかし、今パンフレットを改めて見返していて衣装の色や髪型のリンク(例えばサリーとローザの双子は大人になっても同じ髪型をしている、そして母ヴィルマから天パーの髪を受け継いでいる)については、日本版以上に露骨に表現されているかもしれない・・・?と思った。

その劇場は羨ましいなぁ

ナショナルシアター版についても舞台セットは意外とスッキリしていた。しかし、劇場はシャンデリアで彩られ、天井桟敷もあるような高さがある歴史のある劇場。借景のように、歴史絵巻であるこの話を描く雰囲気作りに力を与えているように見えて、その劇場はずるいな・・・と思ってしまった。

これからのナショナルシアターライブも楽しみだ!