【ロンドン9】ミュージカル「Dear Evan Hansen」感想

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2017年ブロードウェイでトニー賞を作品、作曲、編曲、脚本、主演男優、助演女優の6部門作品賞や楽曲賞、演出、脚本、主演男優賞を受賞した人気作品が2019年秋からついにウェストエンド上陸!


動画はロンドンキャストによるハイライトだ。

ここ最近のミュージカルの中で1番好きな作品なので、ウキウキしながら観に行った。
▶︎2017年9月にブロードウェイで観た感想はこちら

SNSが表示されたベッドルームからスタート

会場に入った瞬間から、またこの瞬間に出会えたという震えが胸を満たした。

ブロードウェイで観た時ももう1回見ることは叶わないかもなと思っていたので、まさかイギリスでこの作品をまた観られるのかぁという感慨でじんわりしていた。

熱心に信じる神はいないが、私にとっては舞台作品は心を捧げて絶対の信頼を置いているものだし、好きな作品は聖地そのものなのだと思う。趣味は宗教なのだなぁ(突然のスピリチュアル。

ギターとストリングスで奏でる名曲たち

パセック&ポール作詞作曲のDear Evan Hansenの曲たちは、ほぼ毎週聞いているし、心の殿堂入りなので、冒頭の母2人が歌うIs Anybody Have A Map?のイントロが始まった時点で涙が出た(早い。
良い曲だけど、やっぱり舞台で物語の中から伝わる響きは、感動もひとしおだよね。


動画は作詞作曲のベンジー・パセックとジャスティン・ポール、そして脚本家のスティーヴンレベンソンがきゃっきゃしながら、楽屋を訪れる動画。

オリジナルキャストとの違い

食い入るように観たオリジナルキャストに思い入れが強かったので、キャストによるカラーの違いも面白かった。
Is Anybody Have A Map?もハイディ役オリジナル・キャストのレイチェル・ベイ・ジョーンズは軽々歌っていたけど、今回観ていて結構難しい歌なんだなと思った。
ミュージカル歌唱よりももうちょっとパンチの効いたヒップホップのような歌唱じゃないと平板に聞こえる。
今回のRebecca Mckinnisのハイディは演技力重視な感じだった。前半は歌唱が…?とも思ったが、ラストのエヴァンと口論してから彼を抱きしめるまで彼女のオンステージのような感じ。

インタビュー動画で、実際に息子がいるので彼女の物語は自分のものでもあると語っていたけど、まさにシングルマザーとしてキャリアアップを目指す女性として、葛藤が伝わってきてもう1人の主役として、とても引き込まれた。
あー良い役者さんだなぁ、と感嘆するというか。参ったって気持ちになるよね。
こんな素晴らしいもの見せられちゃ、興奮せざるを得ないじゃないかみたいな(変態。

初めての生ローレン・ワード

裕福な母シンシア・マーフィー役はローレン・ワード。マチルダのブロードウェイ・プロダクションのミス・ハニー役のオリジナルキャストだ。2016年のトニー賞授賞式パフォーマンスのビデオを何十回も観ていたので、これは嬉しい!

ローレン・ワードはオリジナルのジェニファー・ローラ・トンプソンよりも自己愛強めの母。泣き方とかが自然な範囲で大げさ系。歌は、なんというか突出してパンチが出るので、コーラスも含めてどうしても耳に入って彼女の姿を探してしまう感じだった。
オーラって、やっぱり「自分を見ろ!」っていう強い気持ちだというけど、彼女こそオーラがある女優そのものって感じた。

今回発見だったのは、レクイエムのシーン。ゾエ「You are not the monster」と歌う直前のメインボーカルになるパートで、後ろの母シンシアと、父ラリーのコーラスの部分。ここは単なるコーラスじゃなくて2人の慟哭なんだなと気がついた。
ベットに座って枕にすがりながら、泣き叫ぶように歌うローレン・ワードを観ていて、ハッとした。
美しいメロディを奏でていたが、彼女は確かに慟哭していたのだ。そう思うとぞくっと迫力のある歌だと、改めて。
あとローレン・ワードの表現力にも改めて。

エヴァンがスマートなルックスなので、コーナーは逆にギャング系、ゾエは気位が高く、うちに秘めたるものは特に無い感じ系と、キャスト全体でもバランスが取れるようになっていたのが、印象的だった。
主役とのバランスで、配役を決めていくのだなと思った。

美形エヴァンのマーカス・ハーマン

エヴァン役はオルタナティブのマーカス・ハーマン。すらっと背が高い美形なので、オリジナルのベン・プラットのエヴァンよりも、さわやか系というか、プライド高くて偏屈すぎて上手くいかない系エヴァン。
あと、ベン・プラットに歌声がとても近くて、少し鼻にかかって張り上げるところとか、あ!ベンプラ!って思うことが何回もあった。

心が弱くて弱くてどうしようもないベン・プラットのエヴァンと異なり、彼の孤独は時々、ほんの一瞬でほとばしる感じだ。
役のアプローチが全然違いそうなのだが、それがキャストの個性なのか、米英の舞台製作の違いなのかは、わからなかった。

それにしてもこのオルタナティブエヴァンが、中々どうして良かったのだ。聞いてくれー!!(いや、自分のブログなのだから書けば良いのだけど。

このエヴァンは闇を抱えたエヴァン

今回のエヴァンの描き方は、ブロードウェイ版とは異なるように感じた。優しさ(=心の弱さ)で転がるように悪くなっていくブロードウェイオリジナル版よりも、ロンドン版は自己顕示欲や自分の都合で自覚的に物語を運んでいるように見えたのだ。

なんというか、なよなよ泣き虫のエヴァンというよりも、もう少し冷徹でプライド高めな感じなのだ。もちろん神経質で引っ込み思案のは一緒なのだが。

そのため、ブロードウェイで観た時のように涙腺を直撃するようなことにはならなかった。でも、やっぱり2曲目のWaving Through the Windowで号泣してしまった(結局泣くんかい。
なんというか、木から落ちたところで、少しだけキラリとエヴァンの目に涙が光るのだ。プライド高い偏屈マンだけど、ほとばしる彼の孤独と苦しさ。
え!?と思った瞬間に、涙が出た。そんなに苦しかったのか、それは苦しかったねぇのような。

全編にわたって感情を抑えてそれでも出てしまう系だった。
これが次のラストの部分につながっていくのだ。

ラストシーンまでひとつながり感

抑え目エヴァンなので、Words Fail のシーン(私はこの歌がとても好きなのだが)はそこまで鼻水ぐずぐずにもならず。
So Big/So Small に差し掛かって、まぁこの歌は泣かざるを得ないのだが(結局)、途中ですがるエヴァンをハイディが抱きしめて大団円感があったブロードウェイとは違う感覚を得た。なんというか、エヴァンが打ちひしがれている感じが少ない気がしたのだ。
※ブロードウェイ版と演出が違うと記載していたけど、同じでした。訂正します。このシーンの終わり方が別物に感じただけでした。

観ている方の感情はホッとして途切れず、そのまま、ゾエとエヴァンの会話へ。ラストのエヴァンの独白まで一貫して彼がクールなのだが、セリフあたりでまた目にキラッと涙が。

ここでやっと、どんなに辛くと孤独だったか、どっと押し寄せてきたのだ。

今回はもしかしたら、木から落ちないで上へ登っていけるかもしれない、そう、上へ上へーー「見えるのは空だけ、ずっとーー」

終幕。

な、泣いてまうやろー!!!!!!!

ラストのラストまで全てを引っ張って、決壊させておいて、舞台自体は幕が降りてしまう。深い余韻を残されて、号泣していた。

小川絵梨子演出のFun Homeを見た時も、最後の一瞬にグッときてその後涙が止まらなかったのだが、それに近い味わいだった。

やっぱり人気作品

ちなみに隣の席は家族連れのお父さんだったのだが、Not for himだったのか途中爆睡していた。そして最後は、鼻水垂らしながら号泣している私を「まじか!」のような感じでチラチラ見ており、舞台も気になるが、隣の奴も気になる、みたいな感じになっていた。

そんな彼は、ジェアードのギャグパートは心底楽しそうに爆笑していた。そうです、お父さん、あなたのような陽キャにはこの作品向かないかもです。

客席はブロードウェイのときのカルト的な熱狂感は無いが、人気作品を観に来たぞ!というワクワク感が満ちていた。

おまけ

ブロードウェイの時にグッズを買えばよかったなぁと、ちょっぴり後悔していたので今回はマグネットとキーリングを購入した。
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お出かけバックにご満悦でつけている。

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▶︎前回の記事はこちら【ロンドン8】ミュージカル「Les Misérables」