METライブビューイング「連隊の娘」@新宿ピカデリー

どもども。今日は2回目のラブコメ感想の更新になる。ケイです。

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場のオペラを映画館で字幕付きで観られる「METライブビューイング」。ここ10年ほど毎年2〜3本ペースでゆるゆると観に行っている。

今シーズンは、マイケル・メイヤー演出の「マーニー」と「椿姫」に続いての3本目ドニゼッティ「連隊の娘」。

前回の椿姫が史上最高の椿姫なら、今回の「連隊の娘」は筆者のコメディ部門第1位を塗り替える素晴らしい作品だった。

数ヶ月前にマリーのアリアを歌って作品を教えてくれた友人に感謝である。


上映は終わってしまったが、夏にアンコール上映が東劇で行われるので、見逃した方はぜひ行っていただきたい(自分も年数回しか行かないのに強気の発言。筆者も見逃したネトレプコのアドリアーナ・ルクヴルールに行くつもりだ。

index

  1. 連隊の娘のあらすじ
  2. 不謹慎コメディ
  3. 史上最強の歌手
  4. きらめく小ネタ達

ドニゼッティ「連隊の娘」

1840年フランス語の喜劇作品。ドニゼッティがイタリアでの検閲に嫌気が差して、フランスに移って上演されたためフランス語。ナポレオン戦争当時のスイスのチロル地方を舞台にして、軍や貴族を笑いながら、民衆の幸せや楽しさを歌っている作品だ。

友人曰く劇場にお貴族様ではなく民衆が座るようになった時代とのことだったが、明確にそんな民草がターゲットなんだなとわかる。

あらすじ:進軍してきたフランス軍第21連隊には、戦場に棄てられていたのを軍曹シュルピスに拾われ、連隊で大きくなったマリーというアイドルがいた。そんなマリーに、崖から落ちた彼女を助けてくれた農民の若者、トニオという恋人ができる。だがそこに現れたベルケンフィールド侯爵夫人は、マリーが亡くなった妹とフランス軍人との間の子だと言い、彼女をパリに連れて行く。貴族の生活になじめないマリーを追ってトニオがやってくるが、マリーにはすでに婚約者がいた…。(公式サイトより引用)

小ネタ満載の爆笑コメディ

演出はロラン・ペリー。フランス出身の演出家で、風刺に満ちたコミカルで想像力豊かな作風、特にフランスのオペラ、オペレッタの演出で名作を残しているとのことだった(wikiより)。

でしょうね〜〜〜〜〜〜〜!!!!

オーマイキー!とかブック・オブ・モルモンとか、ジワジワ来るシュール系コメディが大好きな筆者は、もう夢中になってしまった。クソダサ演出に弱いんだよ〜〜〜。


他の作品を見ていたら、昨シーズンラストを飾った「サンドリヨン」も演出していた!
Cendrillon
この馬頭の人たちが印象的な馬車。「Carrosse 」つまりフランス語で「馬車」って書かれた馬車がやってくるんだよ。なんでだよ

あまりに好きな作風だったので、このお方の演出は今後も追いかけていこうと誓った筆者なのであった。

史上最強のキャスト陣

カリッとクセになるスナック菓子のような演出とはいえ、お話自体は至極単純(ラブコメはそうであって欲しい。しかもおふざけすれすれっていうか、本当にずっと不謹慎おふざけしかない演出だったので、その分キャストが超絶ハイスペックで絶妙な塩梅に仕上がっていた。
また、主役陣からコーラスまで人種に配慮した配役になっていたのも含めて、グッとくるものがあった。

ハヴィエル・カマレナ

まずはこのお方だよね。コロコロと可愛らしいトニオ。ジャガイモが剥けなくて、切り落としちゃうトニオ。だけど、マリーへの愛を歌う「Ah! mes amis, quel jour de fête!(ああ友よ、なんと嬉しい日!)」では、テノールの高難易度高音ハイCを9回も炸裂!しかもオクターブ下から一気に射るように!


ちなみにこのシーン、ヤベェ音階を歌い上げているのに、後ろの連隊の人がだんだん聴き入っちゃって最後は首をみんなでフリフリしてて(かわいいかよ・・・)、全然歌に集中できない。

一瞬たりとも真面目な雰囲気は作らせないという演出ロラン・ペリー御大の強い決意を感じたのだった。


ショーストップとアンコールという、ミュージカルみたいな観客の熱狂が今作の特徴。アンコールでも易々と9回の追いハイCを決めて、連続4回転ジャンプを百発百中で決めちゃうスケーターのようなスーパーマン振りを発揮していた。

プレティ・イェンデ

もう1人絶賛されるのがマリー役プレティ・イェンデ。地毛の縮れ毛を生かした刈り上げカット、出身であるズールー族の舌打ちを使ったアドリブ、元気一杯の持ち前のパーソナリティーを生かした役柄など、彼女自身を前面に出した演出だった。
自分に素直に自由に生きるマリーを体現したようなきらめきがあったし、強くて自己肯定感のある女性を描く現代にマッチした演出に胸を掴まれた。


このシーンは、サスペンダーをパチーンてしたり、アイロンに手をジュッとしてイヤーしたり、なんかもう自由。ゴリマッチョ系のマリーたんなのであった。


パワフルな役柄に反して、歌声は繊細で美しかった。でもこの連隊のパパ達との別れのシーンも無駄に洗濯物をずるずる〜と持って登場していて(なんでだよ)、やっぱり歌に集中できないロラン・ペリー演出。

そのあと洗濯物は、貴族側に行くマリーと連隊の人たちを物理的に隔てる境界線になっていたので、なんだよ計算づくかよ!と侮れないロラン・ペリー演出。

2人のインタビュー動画。
イェンデが「マリーの自然な感情を楽しんでいる。彼女は決められた人生の枠組みを持っていなくて、自由に生きていて自分自身にとっても忠実。1幕2幕の違いを通じて、彼女のパワーとエネルギーを見て取れると思う。本能を呼び覚ましてくれるから、なんでもできる少女(gilr almighty)と呼んでいる。」と目をキラキラさせて答えているのが印象的だった。

貴族への痛烈な批判

今回のおふざけの最高潮はお貴族様のシーンだった。
2幕冒頭、アホアホな踊りをしながら延々と繰り返されるワルツ、暖炉から首だけ出して回答する公証人(どっから出てきたんだいと二度見)、マリーにレッスンをつけているのによく聞いているとちょいちょいピアノの音を外している叔母の侯爵夫人(未だかつて登場人物が音を外すオペラがあっただろうか)、なんかしゃちこばったロボットみたいなやたらおじいちゃんとおばあちゃんしかいない舞踏会の招待客(しかもまたあのワルツ)・・・そこへドゥルルルル〜♩登場する戦車とトニオ(だからなんでだよ・・・そして極め付けは終幕のこっけこっこ〜!

まさかのニワトリのポスターが上から出てきて、雄鶏の鳴き声とともに幕切れ。


この動画は同じプロダクションの別キャスト版(フローレス様!)だが、1分過ぎにこっけこっこ〜が入る。めっちゃハッピーエンディングなのに、さらに夜が明けるのだ。
はいはいハッピーですよ〜ってこんなにコメディをコケにしたラストがあるだろうか。コケコッコーだけに(それが言いたかっただけ。

1幕ですでに腹筋崩壊していたのだが、悲恋が訪れる2幕は更に加速して、1ミリも悲しくないまま超特急で終わってしまった。ツッコミが追いつかないくて息切れしそうだった(褒めてる。

筆者の中で長らくブック・オブ・モルモン大好き不謹慎コメディ部門1位だったのだが、今回の連隊の娘はそれを同じくらいの衝撃があった。

昨日のシー・ラヴズ・ミーといい、極上ラブコメを連続摂取してハッピーな週末なのだった。今日はこの辺で!